空から小さな小人達が舞い降りてくる、そんな雪の日。
 小さな包みを抱えた少女がリンドブルムの街を歩いていた。花のかんばせを咲き始めの花のようにほんのりと染め、時折、空から贈り物をそっと手のひらに載せたりする姿はまだあどけなさを残している。

恋に染めし想歌

 今日は2月14日。霧の三国では、大きなブームが巻き起こっていたのです。
 それは、昔々の物語を戯曲として、リンドブルムの劇団タンタラスが上演したことがキッカケでした。

 昔々のとある王国でのことです。その国の時の皇帝は、若者たちがなかなか戦争に出たがらないので、手を焼いていました。その理由は彼らが自分の家族や愛する者たちを去りたくないからだと確信するようになった皇帝は、ついに結婚を禁止してしまったのです。
 ところが、その国のある街の司祭であるバレンタインは、かわいそうな兵士たちをみかねて、内緒で結婚をさせていました。それが皇帝の知るところとなったから大変です。皇帝は、バレンタインに罪を認めさせてやめさせようとしましたが、バレンタインはそれを拒否しました。そこで、投獄され、ついには2月14日に、処刑されてしまったということです。
 バレンタインは、獄中でも恐れずに看守たちに引き続き神の愛を語りました。そのなかで、ある看守に目の不自由な娘がおり、バレンタインと親しくなりました。そして、バレンタインが彼女のために祈ると、奇跡的に目が見えるようになったのです。これがきっかけとなり、バレンタインは処刑されてしまうのですが、死ぬ前に「あなたのバレンタインより」と署名した手紙を彼女に残したそうです。

 この物語は何度も上演され、この悲劇的な物語は人々の心を激しく打ったといいます。
 すると、このブームにのってお菓子屋さんは考えました。
『言葉にはできない秘めた想いを可愛いお菓子にカードを添えて伝えてみませんか?』
 このキャッチフレーズは普段想いを伝えられない女の子たちに大人気となった。お菓子に想いを添えて、料理が上手で家庭的で女の子らしいこともアピールできる。

 それは、アレクサンドリアの奥宮にまでも広まっていた。
 14日に近づいた奥宮では女官たちがしきりにおしゃべりをしていた。女官とはいえ、あまりガーネットと年齢の変わらない恋多き年頃である。そんな秘密のおしゃべりもあるだろう。
 そんな女官たちと話をしながら、ふとジタンへと想いをよせる。
   彼はよろこんでくれるのだろうか、と。
   二人のことを知っている、心許せる女官たちは提案をした。ジタン様にお菓子をつくってさしあげたらどうでしょう?
 女官たちの手助けもあって、だれにも知られることなく13日の夜に調理台の前に立つことになったのだ。クイナの指導のもとお菓子作りは進められる。
「まずは卵3個の黄身と白身に分けるアル」
 コツコツと卵をたたいて割る。これは、お姫様でも馴れた手つきであった。あまり料理は得意でないものの、冒険のおかげで少しは上達したようだ。
「殻も入っていないしイイアルよ。次は白身に砂糖を半分入れ、ツンとつのが立つくらいまで泡立て器で泡立てるアル。こぼしちゃだめアルよ! そこで、バニラエッセンスを数滴いれて…いいアル。これを半分に分けるアル」
 バニラエッセンスのおかげで、甘そうな香り広がる。
「黄身に砂糖を入れて良く混ぜて、そこに半分の白身、溶かしたバターを加えるアル。そこに、水で溶いたココアとを入れてさらに混ぜるアル。そう、ふるった粉を加えてゴムベラでサックリと混ぜあわせて、しゃもじでも、手でもいいアル。でも、混ぜ過ぎないのがコツアルよ」
 言われたように、混ぜすぎないように適等にガーネットは混ぜ合わせた。
「残りの白身を入れ軽く混ぜ合わせるアル。さっき作った紙型に生地を流しいれ、180°のオーブンで25〜30分くらい焼いたらできあがり 焼けているか不安なら竹串でさして見て生地がついていなければ出来上がりアル。ここまでで、生地作りは終わりアルよ。ここまでよかったアル」
 クイナの笑顔につられてガーネットもまた微笑んだ。
「洗ったボールをかぶせて1晩寝かせて、明日デコレーションするアルよ。これをしないで 焼き立てを冷ましてすぐ使うとパサパサして舌触りが悪くなるアル」
「クイナ、きちんとできそう?美味しくできるかな…?」
「あとは、ガーネットがジタンのために考えてデコレーションすればいいアル。料理は見かけも味も大事アルけど、心が一番大切アル。ガーネットなら絶対大丈夫アル」
 と、クイナは胸を(お腹を?)ポンとたたいた。

 そして次の日朝早く、ガーネットはこっそりと起きだした。淡いピンクのエプロンを着込み、足を音を立てないようにそっと歩く。
   厨房に向かうさいに外に面した回路を通ったときだ、空から白い小人達がまるで舞を踊るかのようにくるくるまわりながら降りてきた。そして、そんな寒さの中を懸命に華やかな朱色の花を咲かせている。静まりかえった回路を通り厨房へと向かった。
 厨房にはデコレーションの用意が用意されていた。そして、横に小さな紙が添えられていた。
『ガーネット姫へ
ワタシもお手伝いしたかったアルが、今日リンドブルムで料理の講習会があったアル。忘れていたアル。残念アルが行ってくるアルよ〜。材料は何を使ってもいいアル!料理は心アル。頑張ってアルよ〜!』
「…どうしよう。私だけでなんとかなるかしら……」
 少しガーネットは悩んだが、とりあえずやるだけやってみようと思った。
 調理台に並んでいたのは、チョコレートやカラーチョコ。くるみやアーモンドに、果物やドライフルーツ、ドレンチェリーに生クリームなどが並んでいた。確かに、これならデコレーションにはなんとかなりそうだ。


「クリームの中に何入れよう?」

 溶かしたチョコレートをいれてみよう
 他の素材を探してみる!