冒険記
「宝の地図!?」
4人が声をそろえて言うなか、ルビィは自身ありげに胸を張ってうなづいた。
「そうや。あそこの古本屋のおじちゃんが言ってたんや」
高揚と声を上げるルビィに対して、ブランクは溜め息混じりに冷たい声をなげかける。
「ルビィ、ダマされたんじゃないのか? どうせ子供だましだよ」
単純だよな〜、とブランクに同調して言うジタンに鋭い視線を投げかけて、ルビィは力のこもった言い方で説明してきた。
「あの古本屋のおじさん、誰や知ってる?元タンタラス団メンバーや」
「タンタラス…?」
タンタラスとはもちろんのこと、彼らの所属する劇団タンタラスを指すのだろう。だが、劇団とは隠れ蓑であり、彼らの本職は盗賊団タンタラスである。ここでルビィが指すタンタラスの意味は盗賊団としてのことだろう。
「戦災孤児達で集まってつくったタンタラスの初代メンバーの一人なんやて。タンタラスのクリスマスパティーにいつも3段がさねの大きいケーキ持ってきてくれてるおじさんや」
ルビィの説明に間いれずシナが聞き返す。
「一番上にサンタのカッコをしたモーグリーの砂糖菓子つきのケーキを持ってきてくれる、おじさんズラ?」
シナは、目を輝かせていた。毎年のクリスマス、アジトでは大きなクリスマスパーティーが開かれている。現役のタンタラス団員や大先輩と慕われている昔の団員達などがより集まって、はやい話が大騒ぎするのだ。
団員は自分なりに独立できるようになればタンタラスを卒業するものだが、たとえ卒業したとしても彼らの絆は断ち切られることがない。彼らにとってタンタラスのメンバーはみんな家族であり、自分自身であるのだ。だから、同期の団員でなくても、彼らは団員を家族のように迎える。
その中でも幼い子供達にとくに喜ばれているのは、毎年サンタクロースの服装で現れる、そのおじさんだ。いつも、クリームで可愛くデコレーションされた3段重ねの大きなケーキと、プレゼントの袋を担いでやってくるのである。その人はタンタラスの中でも一番世話好きで子供好きだったとか。
「そういうところだけ記憶力いいよな、シナ」
からかい混じりのジタンの言葉にシナは同じように返す。
「ジタンも女の子のことを覚える記憶力だけはいいズラ」
「もてるのも結構大変だろ?」
実際にジタン君がもてているのかわさだかではないが…。
「とにかく、これは本物や! ギザマルークの洞窟の側に宝物があるって書かれてるし、今度公演でプルメシアへ行くやろ? そこで、冒険しよう!」
力説するルビィの勢いは止まらない。
ニセモノだろうと疑うジタンたちを尻目に勝手に話を進めていくのだ。
「してみる価値あるかもな。ちびタンタラスって言われなくなるかもしれないし、女の子にももモテるかも」
「ジタンの不純な動機は無視して、冒険してみよっ!ねっ!」
ほぼルビィに強引さにひきこまれて、宝探しに出かけることになる。
プルメシア公演の日、予測通りちびタンタラスたちにほとんど仕事はなかった。むしろちょこまかと歩きまわるせいで邪魔にされたほどだった。おかげで、一日暇が用意された。団長いわく、市街見物でもして見聞を高め盗賊の勘を養えとのこと。
慌ただしく行われる準備の中、ちびタンタラスたちはある一室の中でこっそりと相談していた。誰もが舞台に気を取られているため、こんな小さな子供たちには目もくれない。
そんな中、声をひそめてメモを見ながらルビイが話し出した。
彼らの計画では、午前中の間に冒険に必要なものを集めて、12時に団員全員で食べる昼食を済ませる。そして、ルビィとブランク、シナとマーカス、ジタンの3組に分かれて3羽のチョコボに乗り込みギザマルークの洞窟へ向かう。地図の指示通りに進み、奥の階段から地上に上がって宝物を掘り起こしに行く。掘り起こした宝を持って洞窟を出ると、ジタンの乗ってきたチョコボに宝物をくくりつけてそのままプルメシアまで帰る。そして、6時で終わる劇までに間に合わせ、自分たちが見つけてきたお宝を見せつけるのだ。そして、ちびタンタラスという汚名を返上させる。これが、彼らの行動予定だった。
「今から、うちとブランクとジタンでチョコボ借りてくるから、シナとマーカスはきちんとモンスターのこと調べておいてね。何の属性に弱いとか、きちんと調べておかないと大変なんからね」
それだけ言い残すと、3人はチョコボ屋へ、2人は図書館へ出かけた。
「だから、どこへを教えてくれないとチョコボは貸し出せないのよ」
チョコボ屋で3人は質問攻めにあっていた。
貸してほしい、というばすぐに借りられると思っていたのに、店員はしつこくどこへ行くのだと何のためなのかと尋ねてくる。
「おねぇさん、オレとどこかであったことない? こんなソウレイなプルメシア美人を覚えてないはずないんだけどな〜」
「君、いくつ?」
軽やかにかわされた挙句、無視されている。ジタンはぼそぼそとした感じで年齢を口にした。
「……きゅ、9さい」
「ませたことは止めましょうね。それで、どこへ行くの?」
店員はルビィの目線まで腰を折ると微笑んだ。
「レンアイに年齢なんて関係ないんだよ。おねえさん!!!」
「止めとけよ、ジタン。恥ずかしくないのか」
ブランクが軽くたしなめる。ルビィがうつむき加減で尋ねる。普段のルビィとは違った大人しい様子で。
「お姉さんは他の人にチョコボを貸すときも行き先を尋ねたりするの?」
答えを詰まらせた店員は何も言えずにまだ幼い少女を見ていた。ルビィは顔を上げ店員の眼を真っ直ぐと見て尋ねた。
「これはうちらが子供やから? うちらが子供やからそんなこと聞くんでしょう。子供だからって何もできないとかそう思てるわけで」
店員の女性は軽く息をついてから言った。
「そうだね、貴方たちが子供だから」
完全に指揮ルビィのもと進められていった。
軽めの昼食を終え、荷物をバックにつめて、チョコボに軽々と乗り込んだ。初めてのちびタンタラスだけの冒険が始まった。
プルメシアから、チョコボでギザマルークの洞窟まで向かう。チョコボに乗っているので、モンスターには会わずに洞窟の手前へとたどりついた。
「これからが本番だな」
そういうと、ブランクはマッチをすってランプに明かりをともした。そのとたん、暗かった洞窟の中が照らしだされ進みやすくなる。
少し進むと扉があった。蒼色のしっかりした扉で、銀で竜の細工が施されている見事な扉だった。
「この模様、どこかで見たことないズラか〜?」
「確か、プルメシアの街でも同じ模様見たッス」
「プルメシアは竜を崇めている国だからな。このギザマルークの洞窟にも同じものがあっても不思議じゃないだろう」
そういうと、ブランクは重たい扉を押して中に入っていった。
次は、部屋のような空間だった。少し広めの場所で、真ん中に広めの通路があり、左右にはなぜか水が張ってあった。どこか、ほの暗く湖の底を思わせる場所であった。
「なんで水が張っているんだ?」
ジタンは、顔を突き出すようにして水底を覗いてみた。水は透明度が低いらしく、どこかくすんだ感じであった。そのとき、何かが底でゆらめいた。
「なにか…いる」
その言葉を耳にし、4人も水底を覗いた。黒い影はどんどん大きくなり、そしてジタンたちに近づいてきた。ジタンは鞘から短剣を取り出した。銀色に光るの短いこの短剣は、一年前にボスから渡されたものだった。本人は短剣よりも、みんなが使っているような長剣がいいと抗議したのだが、ジタンの素早さを生かすためにはこの方がいいとパグーに渡されたのだ。一年の間でその腕前は伸び、今もまた日に日に上達する一方である。
「いくらなんでも、こんなデカイ奴さすがに相手にはできないぞ」
となると、答えは1つだ。
「逃げろ!」
5人は向こう側に見える扉へ向かって走り出した。その間も、横でかれらを追いかけるような水音が近づいてくる。ほぼ、ぶつかるような形でかれらは飛び込んだ。派手な音を立てながらその場に倒れこんだちびタンタラス。
「いったぁー…」
「ルビィ、重いズラ」
「シナうるさい」
ルビィは、4人の上から降りるとサッサッと服のほこりを払い落とした。
「それにしても、ずいぶん使われていないみたいね。この洞窟」
確かにこの洞窟はあまり人が訪れた痕跡がないようだ。ところどころに人の足跡とは思えないものは、いくつがみえるが。しかし、ここの内装は素晴らしいものだった。洞窟の中とは思えないほどしっかりとした円形のホールのようなところでどこか神秘的ないろあいの床や壁、金色の装飾がほどこされている階段。だが、床には灰色のほこりが雪のように積もっているが。
「ここを利用する目的は、プルメシアとリンドブルムの移動だけだろう?となると、それも説明がつくんじゃないか」
「プルメシアの人の多くが、他との交流をあまりよくは思ってない。家族が多い分、その身内内だけで物事を行うことが多いからな。今回の公演だって、結構異色だろ?リンドブルムから向かうときは、たいていが飛空船を利用する。アレクサンドリアとプルメシアはいまだにあまり仲がよくないから行く人もほとんどいない。」
「だからほとんどの人が使わないのね」
「で、地図では次はどこにいくんだ?」
ルビィは肩にかけたバックから、あの古ぼけた地図をとりだした。かさかさと音を立てて開いた。
「えっ…と…、今通ってきたドアの横に、もう1つドアがあるから…その扉の奥の階段を登って地上にでればいいの」
見渡すと、ちょうど左手の方に黒色のドアがあった。やはり、周りは繊細な装飾が施されている。シナがドアに手をかけ、大きく開いた。その瞬間モンスターがバッと飛び出してきた。うるさい羽音を立てて飛びたってきた緑色のハチのようなモンスター、骸骨の形をして剣を振り回してくる見るからに怖そうなモンスター、そして、中でも一番(子供達の2倍の大きさはありそうな)大きなモンスターがゆっくりと近寄ってきた。どこか、人型をおもわせるような上半身に蛇をおもわせる長い尾がひいていた。目はなく、大きな牙は長く伸びている。
「確かあの飛んでるのはスティングで、骸骨はスケルトン。あのピンクの気持ち悪いのはラミアッス。ラミアはHPも高くて、回復魔法も使ってくるいやな奴ッス」
「でも、ここを通らないといけないんだろ?モンスターの間を通って逃げるなんてできないぞ」
となれば、ブランクはサッと長めのブロードソードをとりだした。銀色に鈍く光る剣は長くて、少々ダガーよりは動かしにくいが、使い方によっては大きなダメージを与えることも可能だ。ジタン達もそれぞれの武器を取り出す。
ブランクは、剣を高めに持ってスティングに振り下ろした。軽く傷を負わせたものの、あまりダメージはくらっていないようだ。そして、シナが後ろから大きなトンカチをふりなげたりと2人で連携しながら、なんとかそのモンスターは倒した。
そして、マーカスはスケルトンと闘っていた。スケルトンは鋭い刃物を何度もふりむけてくる。マーカスも反撃こそするものの、受け止められたり、よけられたりする。気がつくと、マーカスは壁の奥に追い込まれていた。とうとう、避けることもできなくなったとき、スケルトンはその場に崩れた。みてみると、一緒に割れたビンのかけらが落ちていた。
「スケルトンはアンデット系。ポーションやフェニックスの尾がきくんや」
肩で息をしながらルビィが言った。
一方、ジタンは苦戦を強いられていた。相手は自分よりもとても巨大。
「いくらオレがかっこいいからって、モンスターになんか好かれたくないッ!」
ジタンが逃げても、逃げても、ラミアは蛇のように尾を引きながらずるずると近寄ってくる。天性ともいうべき素早さのおかげでラミアの剣を紙一重でかわしてきたが、気がつくともう後ろは壁である。
「見かけが女の子だったから、攻撃はしたくなかったんだけどな」
そういうと、ジタンはテントを投げつけた。テントは、普通はHPなどを回復させるためにあるが、戦闘中に使用すると50%の確率で沈黙・暗闇・毒状態にできるという優れものである。幸運なことに、見事ラミアは特殊効果をうけ、やみくもにラミアに振り回されて剣はむなしく宙をかくだけであった。
ジタンは短剣を引き抜いて平らな部分でラミアの剣を叩く。だが、そう簡単におとせるはずもなく、逆にカウンターを受けてしまった。倒れこむように地面に降りたが、そのまま転がってラミアから距離をおく。傷は浅く、左腕に一筋線が走っただけだった。
ラミアに何度か切傷を負わせると背後に退いた。しかし、ジタンも疲れが表れてきて肩で息をしていた。毒のおかげもあって、ラミアの体力も落ちてきているようだ。ジタンが腕を切り裂くと、かんだかい叫び声をあげてラミアは力尽きた。
「疲れた…」
汗ばんだ髪をかきあげながら、ジタンは崩れるように座り込んだ。
「さ〜て、どうやって登ろうか?」
登るはずだった階段は、どうやらずいぶん前に壊れてしまっているようだ。上からは、光が弱々しくさしこんでいるが…。
「ジタン、抜けられそう?」
頼りないほど細いツタにつかまりながら、地図どうりに地上へと登っている最中である。珍しく弱気なルビィの声にジタンは必死に笑いを噛み殺した。さきほどの、モンスター戦がよほどこたえたのだろう。アジトでの強気はどこへいったのだろうか?
「大丈夫、光が見えてきた」
そこは、生い茂る森の中だった。大きな大木がスラーッとのびていて、淡い木漏れ日がふりそそいでいた。近くの大木にロープを硬く結びつけると、そのロープを下に投げ込んでやった。あがってきた4人も木漏れ日のあたたかさに、体を伸ばしている。
「やっぱり、太陽の下のほうが気持ちいズラ〜」
「風が気持ちいッス。洞窟はじめじめしていたッスからね〜」
「さぁ、お宝探ししようぜ」
「地図によると……まず、北西にぬけないといけないッス」
とりあえず、コンパスで北西の場所をみつけ歩いてくると、しだいに明るい草原が見えてきた。そして、高い位置にあるらしくその向こうには青い空と大きな雲が広がっていた。薄暗い森からぬけだすと、あたたかい日差しが草原を明るく照らしだした。
「お弁当持ってきて食べればよかったわ…」
そんな、のんびりとした会話を切り裂いたのは、低くうなるようなドラゴンの泣き声でだった。身構えて声がしたほうに向くと、そこには想像もしなかったモンスターがにらみつけていた。
とても大きく、体全体が緑のヒフをしていて、さけたような口先からは燃えるような赤い舌がのぞいている。そして、背にはモンスターの身長と同じぐらいの大きさの翼。みるからにドクドクしい爪は地面に食い込んでいる。
それは、グランドドラゴンだった。大陸の中でも指折りの強いモンスターである。攻撃力もHPもあり、熟練した剣士でも倒すのが難しいと言われている。
「なんで、こんなところにグランドドラゴンがいるんだよ」
「資料にのってなかったッス!」
ふたたび地をゆるがすような叫び声をあげると、ちびタンタラスたちに向かってきた。
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