TV考察 2002.1.10初載 2002.1.11訂1


VOL9.地上波民間放送のネットワークについて

インターネットが普遍的なものとなった現在でも、最も身近な情報メディアといえばテレビだ。
何と言っても『リモコンボタン一押しで瞬時に見られる手軽さ』ってのが良い。

日本のテレビ放送は、公共・民間、地上波・衛星、無料・有料などに分類され、 数多くの放送局が存在する。
中でも一番ポピュラーなテレビ放送と言えば 地上波民放だろう。
昔に比べBSデジタルやスカパー!等と選択肢は増えたが、無料・面白さ・多彩さという点では 地上波民放には適わない。


ご存知の通り、日本の地上波民放は地域ごとにテレビ局があり、 各局は四大ネットワークおよびTXNに属している。
(東名阪広域圏には独立系があるが、ここでは触れない)

テレビ局のネットワークは、キー局(東京)+準キー局(大阪)+地方局で構成されている。
ネットワーク化の主な目的は ニュース素材の収集番組配信である。


ニュース素材の収集
全国ニュースを制作するには、全国各地で起こる出来事を取材する必要がある。
1局ですべて行うとなると、要員・機材を全国各地に配置しなければならず大変だ。
そこで各地の局と系列を組み連携することで、効率的なニュース素材の収集が可能となる。
地方での出来事は系列地元局で取材、キー局で素材収集・編集・番組制作し、 系列各局へ配信している。


番組配信
広告放送(電波を広告媒体とした放送)である民放は、 コマーシャル収入により運営されている。
より多くの収入を得るには、CM枠を高額でスポンサーに販売すればよい。
CM枠は「どれだけ多くの人に見てもらえるか」により価格設定される。
つまり、視聴可能世帯数と視聴率が大きいほど高額で売れるのだ。

視聴可能世帯数を増やすには、全国各地の局に番組配信し同時放送することだ。
このためネットワークを構成しているのである。

また、高視聴率を取るためには多くの視聴者を引き付ける良い番組を制作しなくてはならない。
当然、良い番組制作には多くのコストが発生する。
番組を系列局に独占販売することで、高い番組予算を確保できる。


以上のように、ネットワークを構成することで報道面・収入面等、多くのメリットがある。
民放キー局はネットワークの強化を図るべく、系列局を増加させていった。


表1は、地上波民放テレビ局のネットワーク体系である。 都道府県別に系列局の有無を一覧表記した。
なお、クロスネット局(福井放送・テレビ大分)は、メイン系列へ配置した。
[訂1]TOSテレビ大分の番組編成はNNN,FNN半々。 メイン系列の判断が微妙なので各系列0.5局とします。

ご覧の通り、地域によって放送区域と系列局の配置に差異があり、非常に興味深い。
そこで今回のTV考察は、 地上波民放のネットワークについて考察してみる。

まずは放送区域と系列有無について。

1.放送区域

一般放送事業者(民放)は、 電波法第14条第3項第3号 の規定により、免許状で指定された放送区域内でのみ放送することが認められている。
「指定された放送区域内」とは殆どの場合単一県域であり、例えば富山県の放送局は富山県外 で放送をしてはダメなのである。

単一県域の例外は、
関東広域圏 (東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬)
近畿広域圏(TVO除く) (大阪・兵庫・京都・奈良・滋賀・和歌山)
中京広域圏(TVA除く) (愛知・岐阜・三重)
岡高地区 (岡山・香川)
山陰地区 (鳥取・島根)
の、5地域である。

どういった基準で県域・広域に分類し認可しているのか、理由がまったく解らない。
地形の差か?経済圏・文化圏の違い?政治的なモノかも?

例えば佐賀県平野部は、実質福岡局(久留米)のカバーエリア内である。
しかし、同じ佐賀県でも福岡や長崎が受信不可の場合はフジ系列のみ・・・。
放送区域を「福岡+佐賀」に拡大すれば、佐賀県内にも福岡局の中継所が設置可能となり、 地域格差は解消されるだろう。


2.系列の特徴

日本テレビ系列(NNN)
28.5局。佐賀・宮崎・沖縄に系列局が無い。(大分は半系列)
長崎・鹿児島も開局は近年であり、九州沖縄地区に弱い模様。 (読売グループの影響力が小さい?)
民放テレビ初のネットワーク(1958年、NTV+YTVで開始)。
「県名+放送」という名称の局が多い。

TBS系列(JNN)
28局。秋田・福井・徳島・佐賀に系列局が無い。
但し、徳島は大阪、佐賀は福岡でカバーしており、実質未ネットは2県。 全国で一番普及している系列である。
ラ・テ兼営局(老舗局)が多いのが特徴。

フジテレビ系列(FNN)
27.5局。青森・山梨・徳島・山口に系列局が無い。(大分は半系列)
キー局はCXだが、開局はTNC,KTV,THKのほうが早い。
「県名+テレビ」という名称の局が多い。

テレビ朝日系列(ANN)
24局。山梨・富山・福井・鳥取島根・徳島・高知・佐賀・宮崎に系列局が無い。
1990年代の開局ラッシュで一気に10局も増やし、四大ネットワークの一翼となった。
正式名は全国朝日放送。準キー局のABCは元々JNNだった。
新しい局は決まって「県名+朝日+放送・テレビ」という局名である。

テレビ東京系列(TXN)
6局のみ。大都市圏+岡高でネット。とても全国ネットとは言えない。
僅か6局だが、 全国世帯の約7割をカバー しているという。
これは、県域免許であるTVOやTVA,TVQを隣県で視聴している世帯数を含めた数字。
ちょっとインチキっぽい(^^;


ニュース素材の収集という点では、TXNはちょっと辛い。
東北・北信越は地域ブロック内に系列局が存在せず、6局で全国取材は厳しいだろう。
ANNは24局と若干少ないが、配置が上手い。取材範囲は地元+隣県くらいで済む。

番組配信では、四大系列のない県は辛い。
1時間以内の帯番組であれば、他系列局の番組でも週ズレなどで放送できるが、 特別番組やスポーツ番組はまず放送されない。
NNNの無い地域では巨人戦ナイター中継、FNNの無い地域ではK1王者決定戦などは 見ることが出来ない。


そこで系列局のない地域では、隣県のテレビ局を受信し系列を補完する方法を取る。
地上波TVのDXerは、この経験から入門するケースが多い。僕もそう(^^;。

では次は、地上波局のDX受信についての考察。

3.不足系列局のDX受信

表2は、不足系列局のDX受信状況の一覧。

県別に不足系列局のDX受信例を、地形や送信所の配置・出力、その地方のテレビ欄、 ネット等で見聞した情報を元に推定したものである。

例えば富山県では、
(1) ANN・TXN系列が不足、
(2) 高岡・砺波地区では金沢のHAB(ANN)を受信、
(3) 受信状態は良好(◎)、
という状況になる。なお、TXNは無理。

[訂1]沖縄県本島北端部を追加、伊豆半島東岸を追加

○◎地域は多くの家庭でDX受信していると思われる。
△地域では良好な受信は難しいだろうが、そういう地域は地元CATVで区域外再送信 しているケースも多い。

特に民放1局地区(徳島・佐賀)は、ごく一般的に隣県局を受信しており、 地元局は「地元ニュースの視聴用」という役割ではないだろうか。


これらの状況から、殆どの地域では四大ネットワークを見られるのではないかと推定する。

対象局では「隣県でも視聴されている」という事実から、 天気予報ではその地域を当たり前のように予報地点として報じている。


しかし、一応四大系列を見られると言っても、DX受信では「映像レベルが劣る」 「受信設備(アンテナやブースター)に金がかかる」といった不利益が多い。
やはり一番良いのは地元に系列局があることだ。


デジタル化移行・不景気といった現況では、 新規開局は絶対無理なのは100%承知 のところだが、
あえて新規開局の可能性(有用性)を考察してみる。

4.四大系列局の開局可能性

表3は、現在四大系列の無い地域の一覧。

放送局の開設は地元の意向・応援が重要となるが、
現実的には キー局の意向出資企業の存在が最大のキーポイント。

キー局の意向
キー局は視聴者の拡大が最大目的であるから、より多くの視聴世帯を抱える地域を優先する。
当然、人口の多い地域は視聴世帯数も多いので、
[A.人口(2000年10月国勢調査)]優先順位は...
山口、青森、鳥取・島根、沖縄、大分...の順となる。

出資企業の存在
地元有力企業で、他局の出資に携わっていない企業の有無が問題。
(1).経済活動が活発である地域は有力企業も多い
(2).既存局数が少ないほうが他局出資率が少ない
との観点から、
[B.総生産(1997年度県内総生産額)÷既存局数]優先順位は...
佐賀、徳島、山口、宮崎、福井...の順となる。

A・B総合順位は...
山口、青森、鳥取・島根、佐賀、宮崎...の順となる。

なお、徳島は実質大阪局でカバー、佐賀は福岡局でカバーという現状から鑑みて除外、
開局可能性(有用性)が一番高いのは...
山口県(フジテレビ系列局を開局)と結論する。

なお、次点は青森と鳥取・島根。
参考として山形県(四大系列あり)を載せたが、 山口、青森、鳥取・島根は人口面・経済面とも山形を上回っており、
四大系列が無いほうが不思議だ。
(なお山形県は、元々フジ系だった山形テレビがテレ朝にネット替えしたため、 怒ったフジテレビは無理矢理さくらんぼテレビ開局を断行した、という経緯がある)


同様に、五大系列局の無い県、つまりTXNの開局可能性を考察する。
これはもう、四大系列局開局以上に無理な話だが、あくまで空想上のお話ってことで(^^;

5.TXNの開局可能性

表4は、TXNの無い地域の一覧。

総合優先順位は静岡県となる。
参考として岡高地区(TXNあり)を載せたが、静岡はA・Bとも断然に格上。

しかし、単純に人口面・経済面だけで系列局ができるか、と言えばNO。
冒頭でも記載した通り、ニュース素材の収集という役割も重要だ。
東北・北信越ブロックでの情報収集を考えれば、宮城・新潟という可能性もある。

次点の広島県は中国ブロックの中心であるにも関わらず、既に岡山に「テレビせとうち」があるので 難しいだろう。
岡高地区に系列局を置けば、中国・四国の2ブロックを取材範囲とすることができ効率的、という TXNの判断だろうか?



以上、民放ネットワークについて考察してみたが、地域格差の大きさを再認識した。

近年、「地方分権」「一極集中型からの脱却」などと提言されているが、
「全国大多数の人が享受している情報・楽しみをウチの県じゃ得られない」というのは
大変不幸なことである。

民間・商業放送である以上、必ずしも公正である必要は無いのだが、
放送区域の拡大・1局2波の容認等、法整備で是正できる方法は色々ある。
情報リテラシーの地域格差解決の点からも、なんとか改善してもらいたい。


あとがき
現行の地上波放送は2010年頃までにデジタル化される。
デジタル化に際しては、「放送区域内で良好受信できること」を条件に受信実験が行われているが、
電波帯域の有効利用の観点から、極力スピルオーバー(放送区域外への電波漏れ)を防ぐよう、
送信出力の低減や中継局の削減が行われる模様だ。

これはDXerにとって痛い。受信状態が一段階下がることは必死だ。
△地域では受信不可となるかもしれない・・・。


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