“おまかせ”の医療を考える 
          狩野 哲次 著 
「より良い終末期」を望まれる方に
 呼吸器内科専門医の立場から、9年間の「生きるを考える会」代表の立場から、そして自らも死にゆく存在の人間として・・・・・・ 
 近年、医療の分野において、末期ガン患者に対する終末期医療あるいは安楽死や尊厳死の問題、さらには臓器移植と関連した脳死の問題など、終末期にある人達をめぐる問題が盛んに論議されている。
 私達は、健康である状態を前提としてのみ、どう生きるかを考えるのが一般的である。それゆえ、治癒が望めない病気をもった状態でも、どう生きるか、どう死を迎えるかを考えていこうとする昨今の風潮は好ましく、望ましいと思う。
 しかしながら、人生の終末期にある人達を治療し看護する現場にいる私のような者から見ると、一般の人達の終末期医療や安楽死・尊厳死などに関する論議や 要望は、あまりにも観念的・情緒的で具体性に乏しいと思われてならない。ちまたで人々が求めていると思われることを実際の臨床現場で実践しようとしても困 難な場合がほとんどなのである。
 原因は、終末期の実際の状況についてあまりにも知られていないためではないかと思う。医療技術がますます発達する現代においては、自分の身体が思うようにならなくなってからも、死を迎えるまでの期間は長いのである。
 私たちが、自分なりの「より良い終末期」、あるいは「尊厳ある死」を望み、終末期医療や尊厳死などの問題について考えようとするならば、まず終末期にあ る人たちの実際の状況を知り、それらの人たちを支える周りの状況を知る、など、情報をもち、自分の死に関するシミュレーションをしてみることが非常に重要 である。それらを踏まえた上で、対策や対応を考えておくことが必要ではないだろうか。
 私は、数多くの患者の方々の終末期に、医療者として関われせていただいたことを、「“生きる”を考える会」という活動を通して、より深く分析し顧みる機会を与えられた。
 終末期の患者に、医師として何が援助できるのかを考える一方、自分自身も死を避けられない存在として、この問題を考え、関わってきたつもりである。
 亡くなっていかれた患者さんの話は、貴重な先達の言葉である。人は死にゆくとき、何を考え悩み苦しむのか、何を喜びとして感じられるのか、何を動機付けとして生きていけるのか、など、日々、学ぶことばかりだ。
 本書は、これらの患者の方々(本書はガンの患者に限っている)との関わりを基に、一般病院の一般病棟における終末期医療の現状と、それを巡る背景や問題点について述べ、私なりの若干の考察を加えた。
 「よく生きる」ことの延長線に「よく死ぬ」ことがあると思う。
 本書が「より良い終末期」あるいは「尊厳ある死」を望まれる方々の参考になれば幸いに思う。
まえがきより