《 4 髪の事 》
髪は女の命とは、よく言ったものよね
失ってみて初めてわかる、髪はなが〜いお友達
いや、私にとってはそれ以上の愛しい恋しいお方だった
三度目の入院の時、その哀しい出来事が始まった
毎日ブラシをかけるたび、沢山の髪がハラハラと舞い落ちる
手櫛でそっと梳いでみても、それはなんら変わらない
毎朝枕についている髪を一本ずつ拾い集めて
いじましく数えてみるが、どう見てもいつもより多いようだ
シャンプーなんかをした日には
私はいつから「お岩さん」になったのかと愕然とするくらいずるずると抜けていく
いつもは強気の私が、毎日毎日、母の元に電話を入れては涙ぐんで訴えた
「今日も抜けた」「まだ抜ける」「いつまで抜けるんだろう」
訴えたって、母としてはどうにも出来ないのだが、毎日毎日聞いてくれたな
こんな事ばかり繰り返して、精神的にまいっていた私
ノイローゼの一歩寸前ってこのことよね
最終的には腐乱死体のような髪にまでなって
(いえ、実際その様な方を見た事はありませんが)
ついに涙も枯れ果ててしまった
退院と同時に某カツラメーカーに走り
今までにいくつかのカツラをオーダーしたが
こいつが又、高いんである。
こんな、ちっちゃな代物が何であんなに高いのかと、未だに怒りを感じてしまう
人の弱みに付け込んで、許せん所業だ (メーカーの方、失礼)
しかもいくら天下無敵のオーダーメイドだからと言っても
やはり自前の髪には叶わないのである
あああああああーーーーーーーーー、もう!
いつまでたっても不満だわ
たぶん、これから先も不満だろうなぁ
現在、多少は復活してきた髪だが、人並みになるにはもうちょっと足りない
でも、これが本当の私だからね
人に隠そうとは思わない
「じつはヅラなの」とは、言えるんだけど
後はこの頭を人に見られても平気にならなきゃいけないと思う
これが、今後の大きな課題
よしっ!!(多少、カラ元気)
《 5 タロットカード 》
学生の頃、(何年前かはちと忘れたが)←嘘
幽霊部員として在籍していた美術部に、ある風変わりな女の子がいた
風変わりと言っては失礼なのかもしれないが
彼女は他の女の子たちとは明らかに違っていて
その言動一つ、その行動一つに、自分の美学(?)を持っていた
さぞかし、周りの皆からは奇異の目で見られていた事だろうが
もともと、美術部なんていうところに集まってくる連中も
多かれ少なかれ、変わり者が多かったから
部の中においてはそれ程の疎外感は無かったと思う
その彼女は「うらない」とか「霊魂」とかが見えるタイプらしく
時々、占ってもらったりして楽しんでいた
詳しい事はよく覚えていないのだが
ある日皆で出かけていった五箇山の休憩所で
タロットカードで私の人生を占ってもらった事がある
「あまり、こういう事(知る事)はおすすめできないんだけど・・・」
目の奥に軽い戸惑いと、口元にシニカルな微笑を浮かべて
彼女はカードを切っていく・・・
私に与えられたカードは「女戦士」だった
いや、少し記憶が不確かで、カードの呼び名が間違っているかもしれないが
兎に角、戦う人生なんだそうだ
まぁ、確かに、後になると「なる程ね」と思うんだけど
その当時は大層ショックで、でも、それをおくびにも見せず、「ははは・・」と笑ってやったぜ
内心、笑ってる場合じゃなかったんだけどね
お陰さまで、充分すぎるほど戦ってます
大当たりだったわ、○○さ〜ん
《 6 幸せの実感 》
人はよく自分の幸せを実感するすべとして
「だれだれに比べたら私はずっと幸せ」
なんて手法を使う事が多い
実は私も病気になる前まではこいつを良く使っていた
しかし、その比較対照にされる立場になってみて
なんて、残酷な事を言ってきたのかと、後悔して止まない時がある
幸せというのは決して人と比較して得られるものではないよね
自分の心の中に自然と芽生えてくる感情だよね
そう思う様になって
随分と楽に生きられるようになってきた
友人たちが家族の事を話題にする
旦那様の事を話題にする
子供の事を話題にする
それはその時々で、自慢や悩みや愚痴だったりするけれど
私にとっては、涙が出るほど、羨ましい事だった時期がある
何故、私には皆が持つ平凡な幸せすら、与えられないのだろうと
見つかりもしない答えを求めて、毎晩、ぼんやりと考え込む事が多かった
でもそのうち、彼女たちの人生と、自分の人生は元々違うものなのだと
ひがみではなく自然にそう思えるようになってきた
それは「健康な人」と、「病気の人」と言う区別からくるものではなく
個々としての違いなんだと、気が付いたからだ
人にはその人が生まれ持った人生があり、それに付随した悩みが当然の如く発生する
人が人として人生を謳歌するには
自分に降りかかるこれらの火の粉を上手に払いのけ
上手く行けば火種なんかに活用しちゃって
もっと人生を明るく灯しちゃうのがいいんじゃないかと思う
こんな事書いていても
果たして自分が思うように生きられるのか、なんの自信も無いけれど
でも、そう思えるようになっただけで・・・・
私は幸せなのかもしれない