まだよ






《 1 病気 》

膠原病って知ってる?  
私、知らなかったの
初めて病名を聞いた時、23の時だったんだけど
「登山なんてしてないぞ」って思った
要するに「高山病」と間違えていたんですね
似てるでしょ?高山病と高原病

この病気になると、ステロイドっていう薬を飲み続けなきゃならない
この薬が命の綱になる
たいそう良く効く薬だけれど、副作用が半端じゃない
それでも飲む。文句言わずに兎に角飲む
飲まないと命の保証がないからね

初めて服用する時、
手のひらに乗った白い小さな錠剤を、食い入るように見つめながら
なかなか、口に放り込めない自分がいた
これを飲んだが最後、一生のみ続けなければならない
「健康な私」から「病人の私」に変わってしまう
そう、思い込んでいたので、その覚悟がなかなか出来なかった

その時、私の周りの時間が止まったような気がした

長い長い時間が過ぎたのか、それとも、ほんの一瞬の事だったのか
周囲の雑音が聞こえてきて、ふと、我に返った

そして、ジタバタできない現実が私を包み込んでいって・・・
私は、一気にその錠剤を飲み込んだ

そして私は、これまでの自分と決別をしなければならなくなった





《 2 病気 》

人間の体って不思議が一杯
ステロイドを飲み始めると、まず、顔が丸〜〜〜くなる
体も太ってくるけど、まずは顔なのね
20代前半の娘に、これはチトきつい出来事

後に、体も太ったり髪も抜けたりして、女心はボロボロになったけど
何とかその度、微調整に微調整を重ね、(ダイエットとかヅラとかね)←内緒
一見、「元気そうじゃん」位に世間をごまかして生きている
ほほほほっ

そうこうしている内に、自分自身が暗示にかかってしまって
寒い所に行ったりすると、手足の指先が真っ白になっちゃうレイノー症状や
すぐに痙攣が起こって細かい作業が難しい事や
疲れやすくて発熱しやすい事に、慣れっこになってしまった

白くなった指先にはマニキュアを施して人目を欺き
痙攣すればポケットに手を突っ込んで使い捨てカイロで温めて
細かい作業を失敗すれば笑ってごまかす
疲れたら次の日は寝て暮らし、熱が出れば解熱剤がお友達
結構、ヘロヘロと毎日を過ごしている

人って、思い込みの生き物だって事です
深刻ぶったってどうにもならない
私が少しおかしいんだろうか?
もっと、深刻にならなくっちゃいけませんか?

ま、これも薬の副作用と言う事にしておきましょうね





《 3 病気 》

一見、能天気な私でも、時にはくらぁ〜く沈むことだってあるさ
調子が悪くってどうしようもない時は
先の見えない将来を思って、どん底まで落ちていく
でもね、一度どん底を味わうと、後は浮上するしか道はないし
結局、なるようにしからないもんだよね、人生なんてさ

一度、離婚ってものをした
彼は「病気の私」を抱え込める人ではなかったようだ
自分の事で精一杯な人だったから、結果は何となくわかっていた
おそらく、病気になっていなくても、いつかは別れる運命の人だったと思う
色んな理由が重なって結婚したのだけれど
今ではこれでよかったのだと、心の底からそう思っている
病気は彼と別れる為の良い言い訳になってくれたのだと
ちょっぴり感謝もしなくちゃね
(負け惜しみなんかじゃないわよっ)

別れたら、次の検査結果が良くなっていて、センセと一緒に笑っちゃった

でも暫らくは能面のような顔をしていたな
喜怒哀楽の「怒」と「哀」だけで生きていた
なんだか、人が信じられなくなったのね

それなのに・・・・・・
信じられないから、逆に信じたくて堪らない
否定していながら、どこかで、強烈に欲している自分がいる
そんな自分に途惑いながら、どんな自分に安堵もしている
まだ、熱くなれる自分が・・・・私の中にいるんだな

病気になっていろんな物を失ってきたけれど、色んな事を再確認できた
強い自分も、弱い自分も、どれも同じ愛しい自分だ

これが病気になって得た、大事な宝物の一つかな





《 4 髪の事 》

髪は女の命とは、よく言ったものよね
失ってみて初めてわかる、髪はなが〜いお友達
いや、私にとってはそれ以上の愛しい恋しいお方だった

三度目の入院の時、その哀しい出来事が始まった
毎日ブラシをかけるたび、沢山の髪がハラハラと舞い落ちる
手櫛でそっと梳いでみても、それはなんら変わらない
毎朝枕についている髪を一本ずつ拾い集めて
いじましく数えてみるが、どう見てもいつもより多いようだ
シャンプーなんかをした日には
私はいつから「お岩さん」になったのかと愕然とするくらいずるずると抜けていく
いつもは強気の私が、毎日毎日、母の元に電話を入れては涙ぐんで訴えた

「今日も抜けた」「まだ抜ける」「いつまで抜けるんだろう」

訴えたって、母としてはどうにも出来ないのだが、毎日毎日聞いてくれたな

こんな事ばかり繰り返して、精神的にまいっていた私
ノイローゼの一歩寸前ってこのことよね
最終的には腐乱死体のような髪にまでなって
(いえ、実際その様な方を見た事はありませんが)
ついに涙も枯れ果ててしまった

退院と同時に某カツラメーカーに走り
今までにいくつかのカツラをオーダーしたが
こいつが又、高いんである。
こんな、ちっちゃな代物が何であんなに高いのかと、未だに怒りを感じてしまう
人の弱みに付け込んで、許せん所業だ (メーカーの方、失礼)
しかもいくら天下無敵のオーダーメイドだからと言っても
やはり自前の髪には叶わないのである
あああああああーーーーーーーーー、もう!

いつまでたっても不満だわ
たぶん、これから先も不満だろうなぁ

現在、多少は復活してきた髪だが、人並みになるにはもうちょっと足りない
でも、これが本当の私だからね
人に隠そうとは思わない
「じつはヅラなの」とは、言えるんだけど
後はこの頭を人に見られても平気にならなきゃいけないと思う
これが、今後の大きな課題
よしっ!!(多少、カラ元気)





《 5 タロットカード 》

学生の頃、(何年前かはちと忘れたが)←嘘
幽霊部員として在籍していた美術部に、ある風変わりな女の子がいた
風変わりと言っては失礼なのかもしれないが
彼女は他の女の子たちとは明らかに違っていて
その言動一つ、その行動一つに、自分の美学(?)を持っていた

さぞかし、周りの皆からは奇異の目で見られていた事だろうが
もともと、美術部なんていうところに集まってくる連中も
多かれ少なかれ、変わり者が多かったから
部の中においてはそれ程の疎外感は無かったと思う

その彼女は「うらない」とか「霊魂」とかが見えるタイプらしく
時々、占ってもらったりして楽しんでいた

詳しい事はよく覚えていないのだが
ある日皆で出かけていった五箇山の休憩所で
タロットカードで私の人生を占ってもらった事がある
「あまり、こういう事(知る事)はおすすめできないんだけど・・・」
目の奥に軽い戸惑いと、口元にシニカルな微笑を浮かべて
彼女はカードを切っていく・・・

私に与えられたカードは「女戦士」だった
いや、少し記憶が不確かで、カードの呼び名が間違っているかもしれないが
兎に角、戦う人生なんだそうだ
まぁ、確かに、後になると「なる程ね」と思うんだけど
その当時は大層ショックで、でも、それをおくびにも見せず、「ははは・・」と笑ってやったぜ
内心、笑ってる場合じゃなかったんだけどね

お陰さまで、充分すぎるほど戦ってます
大当たりだったわ、○○さ〜ん





《 6 幸せの実感 》

人はよく自分の幸せを実感するすべとして
「だれだれに比べたら私はずっと幸せ」
なんて手法を使う事が多い
実は私も病気になる前まではこいつを良く使っていた
しかし、その比較対照にされる立場になってみて
なんて、残酷な事を言ってきたのかと、後悔して止まない時がある

幸せというのは決して人と比較して得られるものではないよね
自分の心の中に自然と芽生えてくる感情だよね
そう思う様になって
随分と楽に生きられるようになってきた

友人たちが家族の事を話題にする
旦那様の事を話題にする
子供の事を話題にする
それはその時々で、自慢や悩みや愚痴だったりするけれど
私にとっては、涙が出るほど、羨ましい事だった時期がある
何故、私には皆が持つ平凡な幸せすら、与えられないのだろうと
見つかりもしない答えを求めて、毎晩、ぼんやりと考え込む事が多かった
でもそのうち、彼女たちの人生と、自分の人生は元々違うものなのだと
ひがみではなく自然にそう思えるようになってきた
それは「健康な人」と、「病気の人」と言う区別からくるものではなく
個々としての違いなんだと、気が付いたからだ

人にはその人が生まれ持った人生があり、それに付随した悩みが当然の如く発生する
人が人として人生を謳歌するには
自分に降りかかるこれらの火の粉を上手に払いのけ
上手く行けば火種なんかに活用しちゃって
もっと人生を明るく灯しちゃうのがいいんじゃないかと思う
こんな事書いていても
果たして自分が思うように生きられるのか、なんの自信も無いけれど
でも、そう思えるようになっただけで・・・・

私は幸せなのかもしれない