まんがのような。映画のような。 そんなシチュエーションって 本当におこることあるんだなあ。 あれは去年のいまごろ。 桜並木のつづく川沿いの道。 向こうから歩いてきたあなたは 桜の花を愛でつつ、くちもとには ほほえみすら浮かべて。 そしてぼくとすれちがった その瞬間にあなたは。 ハンカチを。ハラリと。 落としたのです。 ああ、こんな。 まんがのような。映画のような。 シチュエーションって本当におこる ことあるんだなあ。 しかしぼくには、ただ、 声をかけることしかできなかった。 そしてまるで布施明の歌のように、 おどろいたように振り向いたあなたが あわててハンカチを拾おうとするのを 最後まで見届けもせず、ぼくは。 -その場を立ち去ったのです。 勇気がなかったといえば、 そのとおりかもしれません。 だって。だって。 ぼくは。ぼくは。 四十がらみのおっさんが たった今まで汗をぬぐっていた ハンカチを拾う勇気なんてなかったー! ああ、こんな。 まんがのようなシチュエーションって 本当におこることなんだなあ。 もういやっ。 |