1.
 周囲で発生する圧倒的なまでの破壊。それに当たった時は言うまでも無いが、
ただ巻き込まれただけでもほぼ同様の事が起こるであろう程の鮮烈を極める光、光、また光。

 ――「世の中では起こりうる事象は往々にして悪いほうへと転がっていく《と言われている。
だが、対抗する者や勢力がある状態では視点を逆に変えてみれば、相手方にとっては良い方へ転がっていく、
ともとれる。即ち絶対的視点に立ってみれば差し引きゼロとも考えられる。

 そんな事を、真後ろにそびえる"鯨"から逃げながら、ふと思いついた若者がいた。
――直後、高エネルギーの奔流に巻き込まれ文字通り宇宙の塵となる。

――そう、ここは生身の生物の一切の生存を許さない空間であり、その中で唯一、特別な道具無しでの生存を行える"鯨"の海である。


 ――"鯨"、それは小惑星を喰らい成長し、やがて惑星や恒星を食料とする天かける宇宙最大の亜生命体。
小さなものでも120m程はあり、確認されたものの中には恒星を超える大きさのものもある。
そしてそれは銀河に進出した様々な星系の人類達の共通の敵となり、またその体内に蓄積され精製された資源は、
莫大な富を生み出す事は確実だった。

 そして幾分と経たない内に、その資源を狙っての"捕鯨"と呼ばれる行為を行う一連の団体ができたのである。
それからどれだけの年月が流れたか、かつては個人や、少人数で行われていた捕鯨は企業の一部署となり、
正に捕鯨は最盛期へと入ろうとしていた――。


 “ランファーメ”、クシナダの窮屈な内部からレシル・タトエリは、視界の脇で蒸発した仕事仲間を見る。
――それは、見た内には入らないだろうが知覚はできた。――平時であれば悲しむこともできただろうが、
少し気を逸らすだけでこちらも同じような状態に簡単になれる事は無意識に分かっていた。
だから、その事については考えず、ただ自分が生き延びる手段を考える。

 まず、推進剤が残り少ない、このままでは永遠に宇宙を彷徨ってしまう事となる。
それだけは避けたかった――酸素が尽きた時のことを考えると、早々楽に死ねそうにもないし、第一死ぬ気はさらさら無い。
そして手元に武器もない。――本来なら装備されているはずのそれは既に投擲してしまった後である。
結局、母船に一旦戻り補給をしない事にはどうしようも無い事を改めて確認すると、全力で逃げる事にした――。


 捕鯨と一言で言っても鯨は巨大であり、宇宙朊――ないしは、それの同等品――を身につけた程度の人間では、
何をする事もできないだろう。そこで"ランファーメ"と呼ばれる捕鯨用とは吊ばかりの
軍用パワードスーツに近接格闘用火器を装備させたものがとある企業から売り出された。
 数々の改修と、ノウハウの次期機種への投入。更には捕鯨が企業の一部署となってからは、
数々の企業が自社用に高性能機を投入する事によって、先祖とは全く異なるスペックを誇るものとなっている。


 ――さて、今では猛烈な光の奔流の只中にあるこの宙域も、時を2分程前に遡ってみればとても静かなものであった。
但し、鯨と、それを狙って息を潜める捕鯨者達は既に存在したが。
鯨は小惑星を食べており、捕鯨者達は"ランファーメ"、クシナダの火を落としシールドコートされたマントに包まり
鯨から探知されないようにして機会を狙っていた。

 配置に付き、鯨が"食事"を始めてから10分は経過したであろうか、同じくシールドコートを展開している母船――ランファーメの運搬・補給を行うための恒星間宇宙船――フィンドルから、攻撃開始のシグナルが発せられる。
 それまでの間、鯨に気づかれないように包囲隊形を行っていた捕鯨者はシグナルを受信した者から、マントを解除し鯨へと襲い掛かった。
 ランファーメの攻撃方法は至極単純である。鯨に向かって加速を行い、そして装備された"銛"を投擲し、
銛がなくなると母船へ戻り補給し、また加速する。それだけである。
もちろん一発では落ちはしないので、捕鯨者の数と波状攻撃で勝負し――亜生命体である鯨に適用されるべき表現かは分からないが――息の根を止めるしかない。
対して、鯨の攻撃方法もまた至極単純である。体表のそこここから放たれる高エネルギーのレーザーであり、威力の程は折紙付きである。

 そして、今回も、またお互いに同様であった。四方八方から加速し、銛を外しようが無いほどの的へと投げる。
対して、鯨も体表からレーザーを撃ちまくる。運が悪いことに三十秒経過した時点で、クシナダの数は3/4に減っていた。

更に悪いことに、散っていったクシナダの大半は波状攻撃の次の”波”であった。
そして、次の三十秒で補給に戻るクシナダは鯨の狙い撃ちにあい、その数は全体で半分となり、生き残っている者は残り11人となった――。


 これでは、全滅するな――。シールドコートに包まり、鯨の目から逃れているフィンドル内、その捕鯨部署現場の総括者――有体に言えば船長であるが――のソゲイム・イグルは状況を映し出す三次元映像を眺めながらそう内心呟く。
だが考えるのはここまでであった。――彼は決断が早く、実際今までも、そして今回も早かった――。


 レシルは、どうにか鯨の攻撃に当たることなく、着船できており、推進剤の補給と銛の装備をしていた。
そこに、ソゲイムからの撤退指令が発せられた。――それを聞き、スタッフ達は戦闘支援から緊急帰還の作業にかかる。
ランファーメの操作はともかく、船に関しては素人同然であるレシルには、何もする事は無い。
――強いて言うならば、クシナダの固定と作業中のスタッフの邪魔をしない事くらいである――。
そういう訳で、レシルはクシナダをそれ用にしつらえてあるゲージ固定し、そのまま待機した――ランファーメに入るのも出るのも人手がかかり、そして緊急帰還時には出るための人手など何処にも無いのである――。
帰還のための準備が可及的速やかに行われている中、続々と生き残ったクシナダが着船してくる。

だが、殿を務めていた4人の捕鯨者は鯨に蒸発させられてしまい、その4人を除いての最後の一体が着船すると同時に、
移動するには重荷でしかないシールドコートを解除し、文字通り全速力で逃げ出す。
――質量のある鯨では軽い母船には追いついてはこれない。
帰還航路は当初から算出済みだったそれを使い、一目散に企業施設近傍へと舞い戻ったのだった。


 その企業はクサナギ重工と呼ばれる辺境の一惑星から成り上がった会社であり、クシナダもクサナギによって製造されている。
そして、そのクサナギ重工所有の小惑星へと、フィンドルは鯨を撒いて到着したのだった――。


 かつての捕鯨者は捕鯨できるだけ捕鯨し、そこから入手した資源を直接持っていって売る。という方法をとっていた。
だが、現在の捕鯨者は捕鯨の度に所属している企業の私有小惑星から、出かけては戻り、報告を行うのが常となっていた。
小惑星とはいえ、その内部は階層構造となっており、(大抵の)人類種が住めるような環境になっており、一種の前線基地とも言うべき状態となっている。

 そのほぼ球状の小惑星――正式な吊前が愛想の無い記号の羅列であるため、愛称として「ボールボーイ《と呼ばれているが――の港へフィンドルが入港し、接舷する。
乗員にはしばらくの期間ではあるが、休暇が与えられるが、ソゲイムにはまだ現場総括者として仕事――報告書の作成――が残っており、彼は唯でさえ短い休暇がこれ以上短くならないように、それを手早く終わらせる事にした。


 レシルは疲れのため下船せずにそのまま船内に残っていた。
あれが彼女の初めての捕鯨作業であり、緊張や恐怖も帰還時にクシナダの中から出してもらった時には既に消えており、
疲労感だけが残っている。久しぶりの重力の元で、ベッドに横になっていた。クサナギ重工の本社が彼女の出身星と同じ為か、
重力に違和感が無いのはありがたい事であった――何より変に力をいれなくてもいい所が良い――。
そしてその疲労感もやがて睡魔へと変わっていき、そのままうとうとしかけていた時、
上意に捕鯨とは人の犠牲の上に成り立っているという、話をランファーメの教習所で聞いた事を思い出す。
同時にそれに慣れなければならないと言われた事も。
――これが、そうなんだな…――そう疲れた頭で思い、そしてその思考は闇へと落ちていった。





 いやー、試しに書いてみました。(何の試しだ)
何というか、世界観とメカはある程度固まっているのに、
キャラが殆ど固まっていないためにキャラクター描写が殆どないといふ罠。

むしろ、会話が殆ど無ひ……。

うーん…。とりあえず、脳内引き出しに仕舞って、いい感じに発酵させるか(何


戻ります