ラブコメ♪
1




 冷え込みが厳しい朝、学校、会社へと通勤、通学する日常の光景。――そんな通学する学生の中に彼――羽状天人(うじょうあめひと)の姿があった。時節柄、詰め襟だ。

天人の両親は典型的なレスィースである。その両親とは諸般の事情から独立して生活している。

「……天人ーー!」

 後ろから呼ばれ、天人は振り返った――その視線の先には制服の上にコートを羽織った少女が長い黒髪を振り乱しながら走ってくる。――彼女の名は水原時雨(みずはらしぐれ)、天人が独立生活している事情の一つである。

時雨は天人と違い、クストロスだ。

「はぁはぁ……天人、なんで待ち合わせ場所にいないのよ?」

「んなこと言ってたか?」

 天人は時雨に向き直り時雨の歩調に合わせ後ろ向きに歩きつつ尋ねた。

「言ってた! 私と蛍ちゃん、二人して待ってて結局ダッシュしちゃったじゃない!」

 ――山桜桃蛍(ゆすらほたる)、クストロスとレスィースを両親にもっている。――彼女もまた天人の独立生活の事情である。

「……それで、蛍は?」

「途中でバテたみたいで……しばらく待ちましょうよ」

「んじゃな」

「ちょっとぉ、天人にも原因があるんだから、ここで待つ!」

 時雨は、振り返り立ち去ろうとした天人の襟首を掴み、引きずる。

「……時雨、このままだとほぼ確実に遅刻する。それでも待つのか?」

「一蓮托生よ!」


 ――結局三人そろって十分の遅刻になった。



「天人、ちょっといい?」

 一間目の授業が終わり、時雨と蛍の二人は天人の左右を取り囲んだ。

――教室内ではその光景を見て合掌している者もいる。

「駄目だって言ったて無駄なんだろ? ……それで、何だよ?」

「ここじゃなんだから……。蛍ちゃん!」

「はい!」

 時雨と蛍は天人の両腕を掴むとそのまま教室の外へ、ズルズルと引きずっていった。

 ――教室内のほぼ全員は確信した――あぁ、あいつも終わりか……。




 ――天人を引きずる二人は、なぜか人がいない廊下で止まる。引きずられていた両腕を解く天人。

「……それで、何なんだ?」

「今夜、遊びに行くから。よろしくぅ!」

「お泊りです!」

「……何を、どうよろしくしろっていうんだよ……?」

 距離を縮め、ドアップで迫る二人に引きながらも問い掛ける天人。

「天人、それ本気?」

 時雨は毎度のことながらも天人の進歩のなさにあきれた。

「時雨さん、天人さんはいつでも本気です!」

「そう? 時々すっごくやる気なさげじゃない」

「やる気がないときでも本気なんです!」

 天人の弁護をする蛍に時雨は現実を言ってみる――だが、蛍は一歩も譲らない。

「……どうでもいいけど、あと少しで二間目になっちまうぞ」

 自分のことなのにどうでもいいで済ませてしまう天人だった――。




 ――昼休み。主に昼食を取ったり、雑談をしたりと授業の間の一時の安らぎだ。

教室内には半分ほどの学生が残っている。その中には天人、時雨、蛍が机をあわせ、弁当を広げていた。

「……天人、またご飯だけなの? おかずもつめなさいよ……」

「あ、私のおかずを……。? 時雨さん、何ですか?」

 白米を炊いたものだけが入っている天人の弁当を見て、時雨は毒づいてから、おかずを箸でつまんで渡そうとする蛍を手で制止する。

「蛍ちゃんが、そーゆーことやるから、一向に弁当の中がご飯だけなのよ。いい? 今後はそれ禁止」

「う〜。そんなぁ、です……」

 至極残念そうだったが、結局蛍はつまんだおかずを自分の口へと運んだ。

「一応、家では他のモンも食ってるぞ。弁当がこんななのは単に時間がないだけだよ」

「……まぁ、そうでもないともう死んじゃってるか」

 天人の言葉に妙な納得をし、何度もうなずく時雨だった。





 放課後、特に部活に入っていない天人と時雨は買出しに出かけることになった。――ちなみに蛍は薙刀部に所属しており、大会入賞者の常連となっている……さすがに性格が変わるということは無い


 二人は近所の商店街へと向かっていた。

「天人、今晩何にする?」

「……とりあえず安けりゃいい」

「あ、代金は私が持つから、だいじょ〜ぶ」

「公平に割り勘だろ」

「いや、それじゃ……」

「割り勘だろ。やっぱ」

「……わかったわよ……相変わらず変なところで律儀なんだから……」


 二人はとりあえず、鍋物と焼き魚を作ることにして青物、魚介類を買って、天人の借りているアパートへとついた。

「いったん、家に帰るね。あ、下ごしらえしといてよ」

「あぁ」

「その材料だけじゃ、心もとないから家からなんか持ってくんね。それじゃ♪」

「んじゃな」

 天人は三人分の材料を持って、一室へと入った。





 ガチャン!

 下ごしらえもあらかた終わったとき、呼び鈴もならずドアが開いた。

「部活が長くなっちゃって。遅れちゃいましたか……?」

 ……おそらく、部活が終わってそのままここに来たのだろう――蛍は薙刀を持ったまま入ってきた。

「? 天人さん、時雨さんはどちらに?」

「いったん、家に帰った……蛍、明日も学校があるんだから、そのまま来るってのはどうかと思うぞ」

「明日の分はここに置いてありますから、特に問題は無いです」

「…………そ、そうか……」

 天人はそれ以外に何を言えばいいのかわからなかった。

――蛍の天人の部屋への入り浸りぶりが顕著に表れているが………。

「何かお手伝いできることはありませんか?」

「いや、下ごしらえのほうはあらかた終わったし……特に無いな」

「そうですか……あ! 天人さん、今日のご飯は何なんですか?」

 一瞬、がっかりとした表情を浮かべたが次の瞬間、手のひらを一つ打ちにっこり笑いながら問い掛ける。

「鍋物と寒鰤の焼き魚だ」

 寒鰤は主に寒い時期に日本海などで捕れる鰤であり、あぶらが乗っておいしいのだ。いやホント。


 ガチャン!

 またも呼び鈴もならずドアが開いた。

「お待たせー! 天人、どこまで進んでんの?」

 時雨はなにやら入った大きめの袋を持ってこれまた、特に意識せず入ってくる。

「下ごしらえまでは終わらせたけど……その袋なんだ?」

「え? さっきも言ってた鍋に入ようと思って持ってきた肉団子とちょっとしたものよ。後は、私と蛍ちゃんとでやっとくわ」

「そっか。俺はテレビでも見てるけど、何かあったときは呼んでくれ」




 数十分後、三人が入っているコタツの真中のカセットコンロの上には鍋が鎮座していた。
三人の前にはご飯が盛られた茶碗、焼き魚の乗った平皿、まだ空の茶碗があった。
――なぜか、時雨と蛍の茶碗類は天人の部屋に常備されているのだ。

「……用意もできたし、それじゃ食べましょうか
それじゃ、いただきます」

「いただきまーす」

「いただきます」

 鍋の中を確認し、音頭(?)をとる時雨、それに続く蛍と天人。

 鍋の中は白菜、大根、時雨が家から持ってきたお手製の肉団子、榎茸などのものが入っている。
――ちなみに、ダシ取り用の昆布は入っていない。手間を惜しまない時期だからこそできることだ。


「……時雨さん、これ普通の肉団子と違う感じですけど、何か入ってるんですか?」

「え?……あぁ、唐辛子をちょっと入れてみたんだけど……駄目だった?」

「いえ、とってもおいしいです。天人さんはどうですか?」

「あぁ、微妙だけど、味にしまりが出てるな……」


 その後も、他愛の無い会話で時間が潰れた。



 食事が終わり、後片付けも済ませ、三人はコタツに当っていた。
時雨だけは何やら持ってきた袋の中をごそごそとやっている。

「? 時雨、何探してんだ?」

「えっと……よっと!」

 ドン! とでも聞こえてきそうな勢いで時雨はビンをコタツの上に置いた。

 ――そのビンの中には無色透明な液体が入っていた。

 ――そのビンにはラベルが貼ってあった。

 ――そのラベルには美酒「肝潰し」って書いてあった。


 ――早い話が酒瓶、と言うわけだ――中身の液体はおそらくラベルにかかれているものだろう。

「……何、考えてんだ?」

 恐る恐る尋ねる天人に時雨はニヤッと微笑み、

「たぶん、天人が考えてることが正解だと思うけど?」

 と、のたまった。全身で、拒否を示す天人。

「? どういうことですか?」

 蛍は小首をかしげながら問い掛ける。――分かっていないらしい。

「とにかく天人、飲んでくれるよね?」

「ちょっと待てよ! 明日だって、学校があるんだし……」

「飲むよねぇ〜?」

「だぁーっ! 断らせる気ないのに疑問形を使うなぁーーっ!!」






「う゛……アルコールがきつい……」

 あの後、時雨に力づくで飲まされたらしい。――「らしい」となっているのはそのときの記憶がすっぱりと抜け落ちているからだ。

 ――二人は眠っている。但し、時雨は「酔って」、蛍は「眠いから」と、つけたほうがより正確な表現になるが……。



「ったく、いい加減にしてほしいよなぁ〜……」

 そういった天人だが、表情は別のことを語っていた……。





 あとがき


作者:ども、「バックボーンはヘビーに、お話はライトで」と言う構想の下、試験的に書いてみたのがこれです。

   アイキゲキとは、「愛」「喜劇」で、ラブコメディーの意味です。

   ――このネタは試験的なものなので続きは書かな……はうっ!(バタッ!)


?:続きを書いてください!

??:そうそう。ここで私たちはお役御免なの?

?:あ、皆様。続きを書いてもらえるよう、ここでぶっ倒れている人にメールでも送ってやってください。

??:あて先はここです。メールボムなどのもの以外は歓迎してくれると思います。
    しなかったら、私が制裁しますから、ご安心を。

 二人、立ち去る。


作者:う……薙刀で、一突き……。! そこにいる君は、天人君……。

天人:大丈夫か?

作者:うう……痛いんだよぉ。

天人:死ぬ程度じゃないな。んじゃな。

作者:(あぁ……意識がぁ……)

※ これは別次元の空間にて発生したことです。現実世界には何の関係もありません。


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