☆注意……この話は、本編開始以前です。


超絶級の番外編




「……おい!ミラド、おめえ明日がなんの日か知ってるか?」

 ミラド・レガルが所属している宙賊団スケルトン・ラグルール。
その旗艦、セルフィール艦橋で団長クリストファー・シーリングスはミラドに確信犯的に尋ねた。

「? あと1時間ほどですか……いえ、知りませんが……何の日なんですか?」

「さぁ、な」

 問い返すミラドに、クリストファーは笑ってそう答えただけだった。




 質問され、分からず教えてもらえなかった時、どうしても知りたくなるものでミラドも、気になった。

 そこで、休憩時間のときに艦橋にいた情報統制自動人形のクレアに聞いてみることにした。

「……クレア、少しいいか?」

「………え? はい、いいですよ」

「……団長が言っていたんだが、明日は何の日なんだ?」

「明日……12月24日ですか?少し待ってください…………宗教の開祖者の誕生日の前日だそうです」

「他には?」

「他にもありますが、マスターが知っていそうなものはこれだけだと思います」

「そうか、すまんな……」

「…………………」

 そう言い、ミラドは立ち去る。――クレアは後姿を眺めていたが、やがて操船作業を開始した。



「………艦影多数確認。繰り返します艦影隊多数確認……第二種戦闘配置の命令を受け付けましたクルーは所定の位置についてください」

 突然、全艦隊に放送が入る。

「……クレア敵の数、所属わかるか?」

 第二種戦闘配置の命令を出したものの、クリストファーは戦闘に乗り気では無かった。

「……数、巡洋艦クラス20、戦艦クラス10、その他支援艦8確認されました。艦影比較から軍警察のものではありません。いずれも5年以上も前のものです」

「……どっこいどっこいだなぁ……ミラド、機動兵器を出せ」

「分かりました……数は?」

「おめえに任せる」



 スケルトンラグルールは艦数100はくだらない船団である。純粋な戦闘力ではこの程度の数、敵ではない。

 ミラドは割り当てられている部下のうち4名を連れて格納庫へと向かった。

「……あ、来た来た。全機スタンバッてるよ」

 整備班主任レイン・スパーニックがミラドの前まで小走りでかけより告げる。

「そうか……聞いてのとおりだ。団長から攻撃指示が出るまで早まったマネはするな。以上だ」

 ミラドのその言葉を合図として機動兵器――ダストガル――へと乗り込む。

 ダストガルは発進フックへと吊るされゆっくりと投げ出される。

「毎回言うが各機、味方艦の射線上に出るな。遠慮せず撃つぞ連中は」

 ミラドが毎回必ず言う言葉に愛想笑いを返す部下達。――冗談ではないのだ、これは。



「……敵艦より打電≪ワレコウゲキノイシナシ コウフクスル コウゲキハシナイデクレ≫だそうです……マスターどうなされますか?」

 一方の艦橋ではクレアが、入ってきた通信(戦闘中はアナログ回線を使用するが……)をクリストファーに伝える。

「まったく、こっちが歓迎してやろうってのを……返文しとけ内容は『見逃す だが置くモンは置いてけ』だ」

「はい……送りました」

「最近の宙賊はどうしてこう根性がねえのか……こっちの腕まで鈍っちまうぜ」



「ミラド、クレアが話しあんだとよ。いいか?」

 戦闘とは呼べない戦闘後、ミラドが艦橋に戻ってくると、いきなりクリストファーに話し掛けられた。
――ちなみに、日付は既に変わっている。

「はぁ……いいですが」

「クレア、連中がおいってったもんの回収作業でしばらく動けねえとおもうから、艦橋から離れてもいいぞ」

「あ、はい……マスター、すみません」

「気にすんな」

「……あ、ミラドさんこちらに」

「あぁ」

「……まったく、世話かけさせやがって………」




 クレアに先導されミラドは誰もいない休憩場へとついた。

「……クレア、どうしたんだ?」

「ミラドさん、先ほどのマスターのお話のことですけど……」

「? あ、あぁ。それがどうかしたのか?」

「そのことをマスターにお話したのは私なんです」

「? どういうことだ?」

「……そ、その……
昔は12月24日はクリスマスイヴと呼ばれていたそうです……
………その……場合によってですけど、この日は大切な人と過ごす日なんだそうです……
…………あの………ミラドさん……少しの間でいいですから……その………私と一緒にいてくれませんか?」

「? まぁ、別に構わないが………」

「! 本当ですか!……良かった………」

 そう言い、今までの緊張の糸がほぐれたのか、すぐ後ろにあったベンチに座り込むクレア。

「……どうしたんだ?」

「いえ、なんでもありません……」




 ミラドとクレアが微妙に二人の空間を作っていると、レインが足早に近づいてきた。

「……ミラドさんちょっといい?」

「? どうした?」

「ダストガルの人工神経のことなんだけど……もうそろそろ寿命なのよ。とりあえず交換しとくけど、最初のほうは違和感があるかもしれないから」

「そうか……すまない……
? どうかしたのか?」

 ミラドはクレアを見下ろした。クレアはミラドの服の袖をつかんでいる、その表情は窺い知ることができない。

「………………………」

 無言のままのクレア。

「?………! あ、ミラドさん私ちょっと他に用があるからこれで」

「あぁ」

 レインは気を利かせたのか、その場から立ち去る。

「………………」

 無言のままの二人。


 気を利かせたレインがクリストファーに告げたのか、それから休憩場へは誰も来なくなった。

「…………………………」

「…………………………………」

 相変わらずそのままの体勢で無言の二人。

 クレアの服を握った手にわずかに力がはいった。

「………あの、ミラドさん…………少しお話しませんか?」

 ミラドが答えるまでの時間はわずかなものだった――しかし、クレアにはとても長く感じられた……不思議なことに体内にある時計がまったく役に立たなかった…………。

「別にいいが……何を話すんだ?」

「……お互いのことを……ダメですか?」

 顔を上げるクレア、ミラドはそれを直視し―― 一瞬の後わずかに視線をそらした。

「………構わんが……」

「……良かった……

















「………ミラドさん、ありがとうございます……
…………楽しかったです……」

「そうか……結構時間がたったな……艦橋に戻ったほうがいいな」

 あっと言う間に二時間ほどたっていた。

「そうですね……」

 クレアは少し残念そうだったが、結局、艦橋に戻った。





 クリストファーは仏頂面で立っていた。――見るからに不機嫌そうだ。

「……結構かかったな………クレア!」

「……はい」

「楽しかったか?」

「! はいっ!」

「……ミラド」

「はい」

「……これからもちょくちょく頼むわ」

 少し照れくさそうなクリストファーだった。




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