空想科学小説 §5


 ローレイン・アンスコンク特少佐、彼女の父トラーズ・アンスコンクは軍警察のスポンサー企業ラフェド・アラモスク・エレクトロニクス社の社外要活動員にして軍警察の上層部にも位置する。

 今回の救出もトラーズの意向が大きかったらしい。――末端であるミラドたちにはそんな噂程度しか情報は入ってきていない。



 宙族に発見されないようにラスチャート二艇は表面にステルスタイルを貼りその他可能な限り熱量も抑えていた。

――その背後には駆逐艇はいうに及ばず、巡洋艦までも出張ってきているらしい。

「予想区域に侵入しました……スキャン開始します」

 ラスチャート艦首から主に偵察に使用される「SS−Lu−2Aδ」――通称「レディアイ」が三方向に射出される。
レディアイは直径三十センチほどの球体であり、火気は一切装備されていない。
この球体は二年前から販売されており、マイナーチェンジを繰り返し、現在では軍警察内の費用対効果を十分満たしており、事実上の偵察機だった。



 ラスチャート艦橋、何かの機械のわずかな作動音以外に音は――ない。
すでに通信は禁止されており、ミラドらのいる艦橋も非常灯のみが灯っている

「……待ってるだけってのも辛いねぇ。……ミラド、あんた今回のことどう思う?」

 一つ伸びをし、レンは後ろのほうにいるミラドに問い掛ける。……だが、返事はない。

「? ミラド?」

 不審に思いレンは後ろを振り返る。――ミラドは軽くうつむいていた。

 ――そのミラドの少し後ろにいるシュプレインはミラドの顔を覗き見、一言
「……寝ているわ」と、告げる。

 レンは軽くため息をつくと、
「……シュプレイン、あんたは姉が人質にとられたりしてるけど、どう思ってるんだい?」
話の矛先をシュプレインへと向ける。

「私情は挟まない主義だから私個人の意見は出せないわ」

「ふ〜ん……。 私たちと同じ艦橋に一人でいるのもそれの関係かい?」

 若干目を細め、問うレン。――ラチュラとクレアは一瞬息を呑む。

「……えぇ」

 それに対して、シュプレインはそう簡潔に答える。


 艦橋内の空気は最悪とまでは行ってないが、微妙なところで保っていたバランスが崩れたところは確かである。
――そこで目を覚ます間の悪い男……ミラド。

 ミラドは変な姿勢で眠っていて首が張ったのか、首を上下左右に動かし、肩をコキコキと鳴らす。

 そして、クレアに「何か変化はあったか?」と問い掛ける。

 クレアは首を左右に振り、「いえ、変化ありません」と答える、――それを聞き、目を閉じるミラド。

 ――が、不意に振り返り、「そういやシュプレイン、前々から聞こうと思っていたんだが、いいか?」と尋ねる。

「質問の内容にもよるわね……一応、聞かせてもらえないかしら?」

「階級章の特少佐、ただのお飾りじゃないよな?」

「……質問の意味がよく分からないのだけど?」

 シュプレインは少し考え込んだが、結局質問を質問で返した。――素だ。

「つまり、だ。『少佐で艦艇にいるんだから、それ相当の力量はあるんだろうな?』ということだ」

「いえ、私は航宙科は専攻してなかったから、そういう意味ではお飾りね」

「? んじゃ、何でこんなとこにいるんだ?」

「突然、辞令が来たの」

「辞令ね……」

 ――レディアイから宙賊に奪われたラスチャートを発見したという報告が入ったのは、それから数分経った後だった。



「ラチュラ、解析結果、どうなんだ?」

「……クレアちゃんといっしょに調べてみたら、九十九%以上の確立であのラスチャートだよ。距離はざっと一〇〇キロくらいかな。……あと、その他の艦艇の姿も確認されてるよ」

「一番艇は?」

「有線通信で情報をやり取りしているけど? クレアちゃん、何か入った?」

 ラチュラはそう言い、隣にいるクレアのほうを見る。

「あ、はい。このまま距離五〇〇〇まで接近。その後、威圧行為に出るそうです」

「時間を稼げばいいんだな?」

「……どうやらそのようです。軍令部は背後の艦艇がこの区域に侵入すれば、投降してくると踏んでいるようです」

「大甘だねぇ〜。……その程度じゃ、宙賊はバカだから投降しないね」

 クレアの言葉に思わずつぶやくレン。――皆は聞こえない……聞かなかったことにした。

「……とにかく、この後は一番艇の行動に従っとけ」

「はい」



 宙賊――軍警察側の識別名称は「強盗」だが、その宙賊は「アポスタシー・マッカ」を名乗っており、他の宙賊と同じようにアステロイドベルト帯を根城にしていた。

 その中の一艇「ラスチャート」はカラーリングを毒々しい赤紫へと塗り替えられていた。
その一室、元々は現行犯の宙賊を一時的に拘束するための監獄にローレイン・アンスコンク特少佐の姿があった。

 ――その両手は手錠が掛かっている。

「……そろそろかしら……。まったく、私も舐められたものね……というより、軍警察かしら?」

 そう誰にも聞き取れないくらいの声量でそう呟くと、ローレインはあっさりと手錠を外し、同じく監獄の電子ロックを内側から解除する。

 ――手錠はともかく、監獄の電子ロック解除は自体は、過去のクルーの反乱における上官の監獄への軟禁が多いことから左官クラスの者のみが知っている解除コードがあり、ローレインもそれを使用したのだ。

 外の気配をうかがう――誰もいないようだ。――だが、油断はできない……現在の艦艇は少数のクルーでも航宙が可能である。その理由は、雑務をこなし、現地修理も行うSSサイズの機動兵器――既に兵器とは呼べず、冗談半分でつけられた開発コード「ドロイド」がそのまま商品名になっているが――と、異常を逸早く発見する光学カメラ他センサー類。

 これらにより、艦内整備、管理の労力が格段に減ったからだ――それは監獄内の人物が外に出れないように監視するようにすることも可能だ。

 ――ローレインはそのことに考えが及んだとき、外に出るのを止めた。


〜付録〜

軍警察内階級


 指令クラス

  特に名称なし

   そのほとんどがスポンサーで占められている。
  その命令は時として不可解、時として納得がいかないものが多い。

 左官クラス

  少佐、中佐、大佐

   中間管理職、がほとんどだが、叩き上げの者はそのまま艦艇の艦、艇長となる場合が多い。
  上と現場との間で双方が納得する答えをはじくのも仕事の一つ。

 尉官クラス

  少尉、中尉、大尉

   主に艦艇に乗り、直接宙族と戦闘行為を行う。
  その他航宙士への勧告なども行う。

 訓練生

  区別は特になし

   訓練をつんでいる段階、実戦未経験者が多い。
  主国アトキーナでは徴兵制はないため、事実上この階級のものはいないといってよい。

 その他

  特〜

   特別な者に名誉的につけられることが多い。
  但し、全てが全てそういう者という訳ではない。



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