空想科学小説 §4


「……誰かにつけられてるね」

「あぁ」

「うん」

 三人は顔を見合わせる。

「……東アトキーナ駅前に」

 ミラドがそう言うと、三人は散り散りになって走り去る。

 三人をつけていた者――クレアは多少迷ったようだが、結局、ミラドの後をつけ始めた。


 ミラドはこの辺一帯の地理は情報端末から増設補助記憶視野へと送り込んでおいたので、迷うことなく東アトキーナ駅を目指していた。

 自分を追う気配を感じる――撒こうとも思ったが、ミラドはより簡単な手段に訴える事にした。

「…………………」

 ミラドは入り組んだ路地の一つにすばやく入ると、気配を殺し、しばし待つ。

 ――やがて、それらしい駆け足の音が聞こえてきた。足音は路地の前で止まる。

「………こっちの場所はわかってるか……」

 ミラドは腰のあたりに吊るしてある光剣を取り出すと、その気配のあたりまで走り、斬りかかろうと、した。

「え! ご主人様!」

「! クレアか……どうしてここに?」

「え! あ……た、たまたまご主人様を見かけて、追いかけただけです!」

 クレアの苦しい言い訳に、ミラドは大げさにうなずいてみた。

「そうか――それで、いつからつけてたんだ?」

「それは、東アトキーナ駅から……あ………」

 さらりと言った問いかけに、クレアはさらりと答え……笑顔のまま固まった。――額に汗は浮かんでいたが……。

「そうか。まぁ、かまわんがな……とにかく東アトキーナ駅へ行くぞ」

 ミラドはそう言うと、クレアの返事も聞かず一人で歩き出してしまった。

 クレアは数秒固まっていたが、我に返ると、慌てて後を追いかけた……。




「……追っ手は撒けたのかい?……何でクレアをつれてんだい?」

 ミラドが指示した東アトキーナ駅前にはすでにレンとラチュラがいた。

「その追っ手がクレアだった」

「へぇ……がんばってねクレア。チャンスはまだまだいっぱいあるから」

 ラチュラは何か思うところがあったらしく、そう言って、ラチュラの肩をぽんぽんとたたく。

「は、はぁ………」

 何のことか分からず、クレアは曖昧な返事を返した。

「……あ!ミラドさん荷物持ってきてくれたんだ。ありがと……よいしょっと、それじゃ、またね〜!ミラドさん今日は助かっちゃった」

 ラチュラは一人でそう言うと、ミラドが何か言う前にその大量の荷物を取って走っていった。――んなに持てるなら、人に持たせるな――ミラドはそう言おうとしたが、肝心の対象の姿は消えていた。

「……さて、と私もそろそろ帰るわ……ミラド、あんたクレアの買い物にでも付き合ってやんな」

「え………?」

「クレアも要りようなんだろ? なら、丁度いいじゃないか……それじゃ」

 レンは、クレアの方を見ながらミラドにそう話すと、ブラブラと歩いていった。

 ――クレアは呆気にとられたようにレンの去っていった方を見ていたが、やがてミラドのほうを向く。――ミラドはクレアを見ていた。

「ご、ご主人様?」

「レンの言ったように何か要りようでもあったんなら早く言え」

「え? あ、はい。最近メモリを交換しようと思ってましたから」

「……そうか」



 ――三十分後、数年前からそのままだったメモリの代わりを購入していたクレアの姿があった。

「――日進月歩ですね。私のと容量が同じでも昔の四分の一ほどの値段になっていましたね」

「あぁ……最近は光速回線を使用したものが試作されていると聞いたからな」

「理論値ですね」

「あぁ。クレア、メモリの代金どこに回した?」

「え? ご主人様のところ以外にどこかあるんですか?」

「そういうのは軍警察に回しておけばいいんだ」

「………それ、不祥事と思われても文句言えませんよ……」

 クレアがポソリと言ったそれは、ミラドにはまったく聞こえてはいなかった……。

 ――最もそうしていたら、次の日には内偵に裏を取られ、クビなっていたのだが……。




 ――その後、ラスチャートの修理、調整が終了したという知らせが入るまで、ミラドたちはそれなりに平穏に暮らした。





 ―― 一週間後。火星軌道上分署宙港。

 修理、調整を終えたラスチャート二艇が、発進準備を終えていた。

『……先にも言っておいたが、今回の目的はローレイン・アンスコンク特少佐の救出にある。……これは、上が絡んでいる。失敗は許されない。 以上だ』

 そこで、グロースからの通信が途切れる。

「発進許可、出ています……発進準備、終了しています」

 報告を出す、クレア。

「一番艇発進後、本艇を出せ」

 第十小隊の一番艇、二番艇は火星木星間アステロイドベルト帯を目指し、主機関を唸らせた。





〜付録〜

 増設補助記憶視野について

  発売元 ツクミ

 埋込個所 第一脊髄



 解説。

  増設補助記憶視野は言ってみれば脊髄に記憶媒体を埋め込むものである。

  情報統制自動人形の管制システムを一部流用しており、
  機器の操作、情報の出入力などに使用され、ほぼ全てのものが使用している。

  ――ちなみに第十小隊の中では、ラチュラは使用していない。



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