空想科学小説 §3
――翌日。
「……ミラド、あんた今日、暇かい?」
レンにいきなりそう声をかけられるミラド。
「? あぁ、暇だが?」
「んじゃ、ちょっと付き合ってくれないかい?」
「あぁ」
クレアに一言告げ、ミラドはレンに言われたとおり、東アトキーナ駅前に行った。
駅前は平日ではあったが、結構な人が行き来していた。
駅の前にあるちょっとしたスペースに、すでにレンがいた――そばではラチュラが何かをいじっている。
「……レン、待たせたか?」
「いや、そんなに待ってないよ」
「そうか……で、そっちのラチュラは?」
「最初から一緒に行くって話をしてたんだけどね。どうもラチュラの欲しいものが結構かさばりそうで、荷物持ってもらおうと思ってね」
「……宅配してもらえばいいだろうが」
半ば呆れながらそう言うミラドにラチュラは今までいじっていたもの――コネクト用の違法端末だが――から顔をあげ、
「それが、ちょっと危ない橋で、そういうサービスはやってないんだ」
いけしゃあしゃあと言うラチュラに、ミラドはこめかみを抑えた。
「とにかく行こ。ね、ミラドさん、レンさん!」
「そうだね」
――そんなミラド達を見つめる陰がひとつ――クレアである。
そして、そんなクレアの足元には気絶させられている私服内偵の姿があった。
――内偵は軍警察内での不正拡大を防ぐ目的で極秘裏に設置されており、それを知る者はごく小数に限られている。
クレアがその事を知っているかどうかは定かではないが、先日のラスチャート強奪により軍警察内元宙賊の立場は更に危ぶまれていた。
「……ご主人様……………」
クレアは内偵よりもミラドのほうが気になるようだった。こぶしをぐっと握り締める。
ミラド、レン、ラチュラはしばし何かを話していたが、やがてその場を後にする。
クレアは慌てず騒がず、後をつける。――今やこのあたり一帯の監視カメラの類はクレアに操られていた。
三人はまず、目立たない裏通りにあるジャンク屋へと向かった。――ラチュラの熱烈な希望によって、最初になっている。
「――えっとぉ……これとこれと………あとこれも……あ、これもいいかも」
次々とパーツを買い込んでいくラチュラ。ある程度買うと、包みを待っているミラドとレンの前に置いていく。
「……どれだけ買う気なんだ?」
「さぁ……でも何に使うんだろうね?」
……ラチュラの買ったパーツは小さな山くらいになっていた。
―― 一時間後。買ったほうには短い時間。待ったほうには長い時間がすぎた。
ラチュラは不満げだったが、ミラドとレンの雰囲気が険悪なものとなっていることを感じ、言いわしなかった。
「……で? レンはどこ行くんだ?」
両手に大量の荷物を持ち、なおかつ背負いながらも、尋ねるミラド。
ラチュラも、申し訳程度だが、両手に荷物を持っている。
「ん? 私はちょっと光剣を見たくてね。つい最近、ジェマンシー社からジェネレータ既定出力が1,5倍のものが出たって聞いたからね。まぁ見るだけだよ」
「……そうか………」
ものすごく疲れたように感じているミラドだった――。
――先ほどまでいたあたりは、違法なものが多く、監視カメラも役に立たない事が多く、クレアは見失っていたが、ミラド、レン、ラチュラが裏通りにあるジャンク屋から表通りに戻ってきたところをクレアはたまたま見つけることができた。
「あ、やっと見つかりました……」
今度は先ほどの教訓を生かし、クレアは少し急ぎ足で後をつけた……。
またしても裏通りに入って行く三人。
「………………………」
ミラドはすでに無言で、一言も喋っていない。
「ついたよ……ミラドもついていくのかい?」
「……あぁ」
ここぞとばかり、ミラドは両手と背負っている荷物をラチュラのそばにでんと置いた。
「え……うん。自衛ぐらいはできるし、まぁいいか」
レンが入った店はコンクリート造りであった、店内は清潔そうだ。
「……なかなかの品揃えだな」
正直な感想を漏らすミラド。レンはニヤッと得意そうに笑う。
「それで、その見たいのはどれなんだ?」
ミラドは一刻も早く帰りたいがために話を進める。
「あ、そうだね……あ、これだ………」
レンは目的の光剣を取ると眺める。
「……結構するね……ミラド、金、貸してくれないかい?」
「………今、持ってない」
「カードは?」
「カードは持つ主義じゃない。」
「……そう………はぁ、まぁ今のを改修すればまぁいいか」
そう言って、レンは名残惜しそうにして光剣を戻すと、パーツのほうを買いにいった。
ラチュラは大量の荷物のそばで待っていた。――彼女を見つめる陰にまだ気づいてはいない。
――その主、クレアはラチュラを見るとレンとミラドが入っていった店を見る。
「一体、何の店なのでしょうか……?」
クレアは不安げにそう呟いた。
数分たって、ミラドとレンが出てきた。
「ミラドさん、レンさん、遅ぉ〜い!」
文句を言うラチュラに、一睨みする二人。
「……ラチュラのほうが時間がかかったような気がするが?」
ミラドにいたっては露骨な皮肉を言う。
「う……ゴメン」
「はぁ……」
ため息をつきつつ、ミラドは再び大量の荷物を背負ったのだった……。
「……ご主人様、あんなにいっぱいの荷物を………」
「……誰かにつけられてるね」
「あぁ」
「うん」
三人は顔を見合わせる。
「……東アトキーナ駅前に」
ミラドがそう言うと、三人は散り散りになって走り去る。
三人をつけていた者――クレアは多少迷ったようだが、結局、ミラドの後をつけ始めた。
〜付録〜
1.機動兵器のクラスについて
LL
〜350m以上
主に戦艦、兵器母艦などの大型機動兵器。
L
100〜350m
主に巡洋艦、駆逐艇などの機動兵器
M
12〜100m
主に接近戦に用いられる、機動兵器。
S
2〜12m
主に艦艇、侵入、戦闘用。対人用武装が多い。
SS
2m〜
主に、艦艇整備、その他の雑用をおこなう。