空想科学小説 §2


 ――六日後。

 定期パトロールのため、第十小隊に配属された者は改めて集合した。

「――第十小隊は火星、木星間のアステロイドベルト地帯をパトロールする」

 説明をおこなっているのは第十小隊一番艇艇長、グロース・ティスト中佐である。
彼は出世コースから外れており、今回の配置転換も半ば無理やりに決定された事である。

「なお、宙賊と遭遇した場合、投降を呼びかけつつも戦闘体勢に移行しろ。以上だ」

 それだけ言うと、彼は退出した。
ミラド達新規採用組、尉官クラスは左官クラスとして乗り込む上官組と形式的な自己紹介を終えた。

「……あなた達が第三艇のクルーね。知っていると思うけど、三番艇管理官シュプレイン・アンスコンクよ……それで、艇内配置は決まっているのかしら?」

「あ?あぁ、決まってるよ」

 シュプレインのきわめて事務的な質問に答えるレン。

「ならいいわ。確認してもいいかしら?」

「あ、あぁ……ミラドが艇長、クレアが艇制御、んでラチュラと私がその他整備だけど?」

「わかったわ。それでは、失礼するわ」

 形式的社交文句を言い退出するシュプレイン。
残されたミラド達はどうしようもなくて、そのまま帰った。


 ――翌日、火星軌道上分署宙港。

 この宙港はアステロイドベルト帯の小惑星を火星のラグランジュポイントまで運びその内部をくりぬき建造され、宙港内の各ドックには一小隊(三艇)が一度に発進できる設備がある。
もっともこれは最小単位のドックでの話であり、より大きいドックも存在する。

 ミラド達は現在軍警察の標準的な巡洋艇、形式番号<Mu−PL−19β>商品名<ラスチャート>に搭乗していた。

『第十小隊、出てください』

 管制の合図に従い、第十小隊の三艇のラスチャートが発進する。

「重力子流入開始、外宇宙航行機構作動準備」

 重力子はあくまで比喩的な名称であるが、その重力子を用い力場を展開させる外宇宙航行機構は恒星間の航宙を目指したものだったが、現在のところ惑星改造した火星と金星でことは足りているので今では単に時間短縮にしか使われてはいない。

 ――数分後、第十小隊各艇はアステロイドベルト帯についた。

『……索敵開始』

 短く告げるグロース。各艇は索敵ポットを射出した。


 ――数分後。

「! 十一時60度の方向に熱源反応多数!宙賊と思われます!――索敵ポットからの情報送信が途絶えました!」

 クレアが、背後のミラドに振り返りながら報告する。

「クレア、第一艇と第二艇に伝えろ」

「はい!」

 ミラドの指示を聞き、クレアは情報を第一艇と第二艇の情報統制自動人形に送る。

『戦闘体勢に移行!第一艇を先頭におく左右後方に二番、三番だ』

 グロースの指示にあわせ展開する二番艇と三番艇。
一方の宙賊も戦闘態勢を整えつつ接近してくる。

『主砲正射後は各艇の判断に任せる。但し深追いはするな!数は向こうが上だ!』

 第十小隊と宙賊との距離が徐々に縮まっていく。
――そして距離1100

『……主砲、撃て!』

 グロースの指示に従い三艇のラスチャートは主砲を発射する。
ラスチャートの主砲は純光学兵器であり、コストパフォーマンス、信頼性が高いことから採用された秀作である。

『各艇散開!』


「副砲、敵機関部をピンポイントで狙え!主砲再発射用意。小型機動兵器に注意しろ!」

「あいよ!副砲のコントロールはこっちでやる!ラチュラ、あんたは隙見て主砲でも撃っときな!」

 ――コンピュータや機械がある程度までやるとはいえ、最終的には人が戦闘を行うといっても過言ではない。
それは技術的、資金的な問題でもあるのだが、人の意地というものでもある。
――そして人はまだ戦いから抜け出せずにいるという証でもある。

「可動スラスター展開、格闘戦に移行します」

 第十小隊、宙賊両者入り乱れての格闘戦が始まった。


「一番艇より救援信号を確認……! 味方から、味方から攻撃を受けているとのことです!!」

「味方?二番艇か……クレア、確認取れるか?」

「……ダメです!二番艇通信拒否しています……ご主人様!どうするんですか!?」

「………二番艇は宙賊とみなす。情報漏れを防ぐためにも二番艇を最優先で狙え!」

 しばし考え、ミラドは結論をそのまま指示として伝える。

「……ちょっと、シュプレイン、確か二番艇にはアンタの姉が乗ってるんじゃなかったっけ!?」

「えぇ、そうだけど。居間は公務が優先すべきことよ」

 ミラドの指示にレンは慌ててシュプレインに確認を取るが、シュプレインの対応には変化がなかった。

「……指示変更。とりあえず、二番艇が完全に破壊されない程度に攻撃しろ」

 脇で繰り広げられたやり取りを聞き、ミラドを指示を一部変更する。――が。

「! どうして今ごろ……ご主人様、二番艇から通信要請です。どうしますか?」

「要請にこたえてやれ……ラチュラ、影響はないと思うがクレアの処理速度が多少落ちるからカバーしてやってくれ」

「用意OKだよ!」

 ラチュラの返事に答えるようなタイミングで通信がつながる。

 二番艇艇長、田所伸二が映っていた。その横には二番艇管理官であり、シュプレインの姉であるローレイン・アンスコンクがいる。……ただし銃を突きつけられて、であるが。

『……戦闘行為を停止してください』

「……アンスコンク特少佐、どういうことでしょうか?」

 シュプレインは田所ではなく、ローレインに尋ねる。

『……シュプレイン、いくら公務だからってそれはないんじゃないの?まぁ、今に始まった事じゃないからいいけど』

『人質です。もう一度言います、戦闘行為を停止してください。さもなくば、この方の社会生活は保障しかねます』

「……どうする?」

「戦闘を継続した方がいいわね」

『……これ以上はもたんか……一番艇自沈する。三番艇脱出艇を回収してくれ!』

 グロースからの通信が割り込む。目を細め、口の端を吊り上げる田所。

『どうします?』

「まず、二番艇との通信を一部カットだ!その後一番艇の脱出艇を回収しろ」

「はい!」

「Mクラスの機動兵器発着場でいいね?」

「脱出艇、相対距離120。予想到達時刻プラス四秒」

「プラス一秒になったら、フォースバリア解除しろ。レン、回避頼むぞ」

「ま、やってみるよ」

 脱出艇を回収するためにはまず、フォースバリアを解かなくてはならない。――それはろくな装甲を持たない巡洋艇にとってある意味死を意味する

「フォースバリア解除……着艇を確認、再展開します!」

「よし、一旦ひくぞ」

 クレアからの報告を聞き、ミラドは前々から決めていた事を告げる。

「どうしてかしら?」

 尋ねるシュプレイン、その表情は得心とは程遠い。

「人質がないとしても、戦力差が大きすぎる。このままではどの道撃沈される。クレア、用意いいか?」

「はい、重力子機関流入を確認しました。」

「目標地点は火星軌道上分署宙港許可区画ギリギリの地点だ」

「はい」


「………今回の定期パトロールにおける問題点は軍警察内部の元宙賊と宙賊に繋がりがあったということだ」

 第十小隊の面々は対宙部実行科、科長フレッドに呼び出されていた。

「……いくらかの情報も漏れていると見て間違いないと思われます。それとローレイン特少佐の扱いも気になります」

「そうだな。軍警察内部の元宙賊の立場は危うくなるだろうな……」

「………ま、当然だな」

 ミラドは誰にも聞こえないくらいボソリと呟く。
そんなミラドを軽く見上げるクレア。

「……一番艇と三番艇の情報統制自動人形は共に市販品ではないからな修理と調整にしばらくかかる。そのつもりでいろ」

 そこで解散となった。


〜付録〜

1.形式番号について


社名−用途、サイズ−製造順番(16進数)、マイナーチェンジ回数(ギリシャ文字)、他

 例 
 Mu−PL−19β

 (マーズサクシェアル社製−警察用、Lサイズ−25番目に設計され2回マイナーチェンジを行ったと言う意味)


2. 巡洋艦ラスチャートスペック


形式番号      <Mu−VL−19>

商品名       <ラスチャート>


対応情報統制自動人形
           <Lu−Ica−9 オプティマイズ>
           <Lu−Ica−A カレント>

外宇宙航行機構 <Mu−osγ> 

最低乗員数   四名

最大乗員数   二十名


最大速度    7054m/s(理論値)


 備考

  軍警察内配備数 約一万二千艇



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