空想科学小説 §1
――広大な宇宙、人類が外宇宙航行機構を開発し数年が経ったが、人類の生活空間は、地球とその周辺の惑星改造された惑星のみであった。(中略)
――宇宙について語るとなれば宙賊を抜くことはできない。
――宙賊というと、クリストファー・シーリングス率いる「スケルトン・ラグルール」が有名だが、ここでは割愛する。(以下略)
――地球地方情報網紙、記者の記事より一部抜粋
――近年の宙賊などの違法行為は凶悪化が進行しています。
――航宙士の方々はより一層の注意を払ってください――。
――軍警察対宙賊部広報課の広報活動より
――我々は元宙賊は雇わん!
――「元宙賊は雇うのか?」という記者の質問に対する軍警察理事の返答
「あまりうろつくな。迷うぞ」
火星の主国クロトの首都アトキーナの中心地を歩いていた男――マントをつけており、その物腰は一般の人々とは異なっている――名は、ミラド・レガルと言うが――は少し後ろにいる情報統制自動人形のクレア・シーリングスに声をかけた。
「すいません。そこの地域情報でマスターのことが言われていまして……」
そう言いながらクレアはトテトテとミラドのそばまで小走りで近づいてくる。
「……団長か、で、なんだって?」
ミラドは元宙賊でありつい最近なんとなく足を洗ったが、その時餞別にともといた宙賊の団長、クリストファー・シーリングスからクレアを譲られたのだ。
「……いまだに消息不明だそうです」
クリストファー・シーリングス率いるスケルトンラグルールは現在消息不明……宙賊行為すら起こしていない状態である。
「……いずれ見つかるだろう、それよりもしばらく来ない間に火星も変わったな……」
ミラドは多少強引に話題を変えつつ、あたりを見回した。
「そうですね。それにしても、よかったんですか?」
「何がだ?」
「……就職先が軍警察対宙賊部実行科ということです」
――数年前までは元宙賊は軍警察に就職できないと言われ事実、就職は無理だった。ところが、近年増加傾向にある宙賊の始末を行う実行科の人員増強と各人の戦力強化のため蛇の道は蛇ということで元宙賊が採用される傾向にあるのだ。
――だが、それは裏切りということでもあり、集まりは結構悪かった。
「? だから何がだ?」
全く分かっていない様子のミラド。――宙賊時代もこんな感じだったらしい。
「ですから、世間でも言われているように、裏切りでもあるんですよ!それでもやるんですか?」
周りの通行人が不審気に眺めているが、二人は気づいてはいなかった、――ある意味似たもの同士である。
「向こうも生活がかかっているように、こっちも生活がかかってるんだし、気にすることじゃない」
「……そうですけど…………あ!」
クレアはいまいち得心がいかないようだったが、歩き始めたミラドに慌ててついていった。
――十数分後、二人は軍警察アトキーナ支署の前に来ていた。
――ちなみに本署は地球と火星の間の宙域にある。
前にいるだけではどうにもならないので、中に入る。
「……就職者説明会の会場はどこに?」
「三階第一会議室です。」
正面ロビーにある受付で説明会の会場を聞く。受付の答えは簡潔極まりないものだった。
――とくに気にする二人でもないので、そのまま脇の階段を使い三階へと行く。
第一会議室はすぐそこにあったので、そのまま入る。
第一会議室の中は結構人が入っていた。
とりあえず、空いていた席に座り、しばし待つ。
――十分後、係員と思われる男が二人、入ってきた。
「……諸君らは、実技、筆記それぞれの試験に合格したものだ。今日は、就職説明を行う、各自今から配布する用紙に目を通せ」
前に立った男がそう言うと、後ろの方に直立不動の状態で立っていたもう一人の男が、プリントを配布し始める。
内容は、定期パトロールについてのものだ。
「行き渡ったな?では始める。この後、諸君らは軍警察火星軌道上分署、対宙部実行科第九及び第十小隊に配属される事となる。各小隊の配属は決定しているが、小隊内構成は諸君らに任せる。新人補佐のため、一名以上の左官クラスの者をおくのでそのつもりでいておけ。」
男は一旦そこで切り、室内を見回すが、そのまま続けた。
「……両小隊の定期パトロールは一週間後。第九小隊は本署、火星軌道上分署間に点在するジャンク地点、第十小隊は火星、木星間のアステロイドベルト地帯だ。各人、それまでになれておけ……では、解散!」
それだけ言い、二人は出て行った。――途端に室内は騒々しくなった。
「ご主人様、どうしますか?」
すぐ横にいた、クレアはミラドの顔を覗き込むようにして尋ねてくる。
「……クレアも第十小隊に配属されるのか……とりあえず、顔合わせとくか」
ミラドと、クレアは同じ第十小隊に配属される事となった(クレアの場合、個人の所有物兼備品ということになっているのだが……)
二人はとりあえず、第十小隊に配属される他の者と顔合わせをしたのだが、そこにはミラド、クレアを除き五人の男女と一体の情報統制自動人形がいただけだった。――通常、一小隊には最低でも十二人の人員と、三体の情報統制自動人形が必要なのである。
「……足りないな」
「足りませんね」
ミラドと、クレアは顔を見合わせそう言うしかなかった。
――数分後。配布用紙の隅に小さく「軍警察関係者六名小隊内構成決定済み」と書かれ、その下に構成図まで添えてあったことが、分かった。
「……配置される情報統制自動人形は『Lu−Ica−9αkオプティマイズ』ね……えっと、ミラドって言ったけ?その情報統制自動人形はあんたのかい?」
配布用紙を眺めながら、長身の女性――レン・ブンエンはそうミラドに尋ねてきた。
「まぁ、それに近いな」
「そうか……なら、あんたと組んでいいかい?」
「? 何か意味があるのか?」
「オプティマイズはシステムがあんまり安定してないからね。その点、自作品ならフルチューン並みのことは平気でしてあるからね。私も生き延びたいし、艦制御はしっかりしてほしいからね」
「別にかまわないが……」
少し複雑な気分に浸るミラドだったが、深く考えてはいられなかった。
「……あの、名前は?まだ聞いてなかったよね?あ、ボクはラチュラ、ラチュラ・クレオールって言うんだ」
「あ……クレアです」
ラチュラはなぜかメガネを、(この時代は万能細胞からの再生技術によって、近視などの問題は解決しており、メガネなどは博物館の中にあるようなものと化している)
漫画チックに光らせクレアに詰め寄っている。
「ね、ね、処理能力どれくらいあるの?メモリは?バッテリーは?駆動系は?表面加工が皮膚っぽいけど何なの?あ、あと髪の毛って何でできてるの?」
「あ、あの……もしもし!?」
一気に問い掛けてくるラチュラに押されまくるクレアは、涙目でミラドのほうを向く。――どっからどう見ても助けを求めているような状態だ。
仕方無しに、ミラドは二人の間に割って入った。
「……ラチュラって言ったけ?悪いが、はっきりしたフルスペックは計ってない。とりあえず、理論値なら出ているが……?」
「え?そうなんだ……ボク理論地には興味がないからな……んじゃ、実際に計ってみていい?」
「へ?」
「今度のパトロールで戦闘が発生した時でいいからさ」
「ちょっと待て……つまり、組むということか?」
ラチュラの言葉にミラドは思わず、聞き返す。
「当たり前だよ。他の艦からだったら、できそうにもないし……どっち道残った人たちは同じとこ出身だからもう決まってるようなものだし」
――この場合の出身とは元いた宙賊である。
ミラドは軽くため息を吐きつつ
「……変更はもう効かんか………」
と、呟いた……。
〜付録〜
第十小隊構成(仮決定)
1番艇.
ガーナシュア・ダレーン(佐)
セイレイン・アンスコンク(佐)
木戸吉宗(佐)
2番艇.
田所伸二、
ルーレイン・アンスコンク(佐)
トムネ・ラゲン
ヒチ・ホンガ
3番艇.
ミラド・レガル
シュプレイン・アンスコンク(佐)
ラチュラ・クレオール
レン・ブンエン
上記には情報統制自動人形は含まれていない。
また、(佐)とは軍警察、佐官クラスの者である。