悪の秘密結社 第壱話


 ――この町は世界の中でもとても珍しい。

 どこが珍しいのかというと、この町には悪の秘密結社、地球征服を企む宇宙人、そしてそ れらの悪と同じ数だけの正義の味方が日夜戦い続けているからだ。

――この町には「器物破損における特別条例」というものがある。――つまり、正義の味方と悪の組織の戦闘で壊したものは、壊したほう、どちらかわからない場合は双方が弁 償するというものだ。

 この条例を破った場合、この町に存在するすべての正義の味方と悪 の組織に袋叩きにあう。

 正義の味方、悪の組織とも日常は民間人の生活そのものである。異星人だって日常では 地球の日本人そのものだ。

――これは「環境保全における特別条例」が関係するんだけど。

 そういう一人称形式で語る私は、女子高校生徒Aとでもしといてください。

 ――でもいつからこの町は他の地域から見てこんな異常事態になったんだろ?

 ドゴォォォォォォォッ!

 私が放課後の教室で物思いにふけっていると、突如爆音が轟いてきた。

 私もそうだったが、教室に残っているほかの生徒も、騒ぎひとつ起こさない。

 ――だって私たちにとってこれが日常なんだもん。

「……げっ!あそこの方角、俺の家があるほうだぁぁ!」

 ふと窓の外を見た男子生徒の一人が絶叫する。――ご愁傷様……

「いったいどこだ!?」

 その生徒は窓から身を乗り出すようにして、外を凝視する。

 後で苦情を言うつもりなのだろう……

 ――そろそろ行こ……

 爆音のたびに絶叫が聞こえる教室から私は足早に去っていった。


 学校近くの商店街では黒服戦闘員がごみ拾いをしていた。買い物途中のおばちゃんも「がんばってるねぇ」などと黒服戦闘員に声をかけている。

 近頃は「せっかく手に入った地球が汚いのは嫌だ」ということで地道に掃除を始める悪の組織が出始めてきている。「敵さえ倒せばそれで良し!」という近頃の正義の味方よりは まだ幾分マシだろう。

「あの、すみません」

 ぐぇっぅ!

 不意に後ろから呼ばれ、振り返ると、そこにはちょっと……いやかなりグロい怪人蝿男 (……だと思う。自信ないけど……)が、もみ手して声をかけてきた。

 ――不気味だから やめて……

「なんですか?」

「少しの間だけ人質やってくれませんか?」

 ――おい……これである。グロいくせに礼儀正しいからよけいに不気味なのだ……

「あ、今急いでいるから……」

 正直いって断ると何されるかわからないような外見なので少し怖かったが、人質の確認を取るような怪人である。断っても危害は加えないであろうとふみ、正直に断る。

「……そうですか、しょうがないな。なら他の人に頼んでみます。お手数おかけしました」

 そう言い蝿男は軽くお辞儀をすると足早に立ち去っていった。

 ……まぁ、別にいいけど……さ、とっとと行こ。


 私は秘密のルートで地下秘密基地に入っていった。通算一万飛んで十一個目の悪の組織だ。そして私は女子高生Aから悪の幹部となるのだ!(バイトだけど……)

 私はモニターと電飾の明かり以外の照明が落とされている作戦会議室につくと、総司令官マルム様(世界征服の暁には一番エラクなる人)が座っているほうを向く。

「……遅かったね」

「途中、人質になってくれと言われまして……」

 私がそう答えると

「……そうか、不可抗力ならやむを得まい……それでは本日の議題に入る。今回も前回と同じくこの秘密結社の名称と、敵を作ることだ。何か意見はあるかね?バイト君?」

「……あの」

「何かね?」

「私はバイトじゃなくてノモ(NOMO)って言うコードネームなんですけど……」

 私はマルム様に弱気ながらも抗議を試みた。

「ふむ……」

マルム様は少し考え込んだ。

「……だが君は私の中ではバイトで決定だ」

「……はい……バイトでいいです……」

 私はしぶしぶバイトというコードネームを認めた。

 私がこの秘密結社でバイトをしているのには訳がある――なんでも作ったばかりで正式社員を雇う資金は無いらしい。

「……あ、マルム様!私、組織名称の案をいくつか考えてきたんですけど!」

「ふむ、言ってみたまえ」

「はい!『ショ……

「没」

……ッカ』なんてどうでしょ?」

 自身満々に言った私にマルム様は「ショ」のあたりで、すでに没とおっしゃっていた。

 う〜ん、やっぱりこの町、初の悪の組織のパクリは悪の組織としてまずかったかな〜

「……あの、どこらへんがダメだったんでしょうか?」

「あのような作戦に一貫性の無い組織の名に酷似している組織名などでは世界は取れん!

さらに秘密結社の「秘密」の意味をまったく理解していないとしか考えれん!組織の宣伝 なぞしたら「秘密」ではなくなるではないか!」

「……あの、私にはそーゆーディープなことわかんないんですけど……」

 私がそういうとマルム様はしばし考える。

「……バイト君、君の年齢は?」

「え……十七です」

「そうか、ならわからないね。私が九つのとき、ちょうど、その組織がその作戦を実行し していて、私を勧誘した。断ったがね」

「そ、そうですか……」

 私はマルム様の過去をちょっぴり知った……もうバイトを辞めることはできないだろう

……それは最初から覚悟のうえだけど……

「……他に無いのかね?」

 しばらく過去の思い出に浸っておられたらしいマルム様はしばらく何もおっしゃらなかったが、やがて口を開かれた。

「……そうですねぇー、特殊機関MERV(メルフ)なんて・・・・・・」

「バイト君、オリジナリティーがないと思わないかね?」

 私が『どうでしょ?』という前に、マルム様の遠回しな没宣言により、あえなく撃沈する私。

「・・・・・・あのマルム様、オリジナリティーがある組織名ってどんなんですか?」

私の質問にマルム様はしばし考える・・・・・・やっぱ言ってくれる訳ないか。

「そうだね・・・・・・『世界征服研究会』なんてどうかね?」

 一瞬マルム様が答えてくれてラッキーと思ったが、マルム様の考えた組織名のすごさに私のゲシュタルトは崩壊しかけた。あぁマルム様の勝ち誇ったあの表情、デジカメにとって、インターネットに流したい・・・・・・。

「・・・・・・マルム様、すごい発想力ですね」

「うむ・・・・・・誉め言葉として受け取っていいんだね?」

「・・・・・・はい」

 一瞬、『いいえ違います』と言おうと思ったが、言ったら、バイト代が払われないような気がしたので、素直に肯定する。

「では、今から、この組織を『世界征服研究会』とする!!」

 マルム様の堂々とした、組織宣言を私は涙して聞いていたのだった・・・・・・



おまけ


「・・・・・・あのマルム様」

「何かね?」

「省略名称どうしましょ?」

「・・・・・・そうだね・・・・・・『世研』でいいのではないかね?」

「・・・・・・そうですね」


日記帳

○月 ○日 ○曜日 天気○

 今日、バイトしている秘密結社の名前が決まった。その名も「世界征服研究会」略して「世研」となるこの組織、明日は敵を決めないとなー。






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