サウラーはとりあえずの処置として政府直属の審問機関に送検された。

 サウラーにとっては脱出することも可能であったが、そんなことでお尋ね者にされる気は無かったので、素直に従った。


「……何度も同じことを言わせるな」

 サウラーは目の間に立ってヒステリーを起こしかけている中年の一歩手前といったような男の審問官との問答にウンザリしかけていた。

「敵意を持って攻撃してきただけですべてを滅ぼすということがあってたまるか!あのテロのバックボーンがわからなくなったじゃないか!……!キサマ、もしかしてそのバックボーンからテロの口封じを命ぜられたんじゃないだろうな!?」

「……もし、俺がそのバックボーンとやらの一員なら、こ審問こ機関を破壊して脱出するだけだ……」

 完全にいっちゃってる審問官をサウラーは冷ややかに一瞥する。周りにいる審問官も、明らかに迷惑そうな表情だったが、半ばあきらめのムードだった。

「……それに歴史などいくらでも書き換えることができる……」

 サウラーはつなげて小さく呟いた。もちろん目の前でヒスを起こしている男になど聞こえてはいなかったが……

「……これ以上ここにいても無意味だな……」

 そういい、サウラーは席を立つ。

「なに言ってんの!アンタを外に出したらワタシの地位が落ちちゃうじゃないの!」

「……時が来た、ということだ」

「時?どういうことよ!」

「本題に入る、ということだ……」

「な、なにがだ!……」

 その審問官の言葉は途中で止められた。

「そこまでにしとけ……そこの男、名は?」

「………………」

 その部屋に近衛兵が入って、審問官を制止し、サウラーに名を聞く。サウラーは、結局答えなかった。

「……まぁいい、来い!」

 諦めた近衛兵が、サウラーについてくるよう促す。

「あぁ」

 近衛兵とサウラーは審問室の一つから出ようとしたが、審問官が前に出て両手を広げる。

「……何だね?」

「ワタシはどうなるのよ!これじゃぁ、これじゃぁ……」

 そしてそのままヘナヘナとその場に座り込む。どうやら精神の糸が切れたらしい。

「……行くぞ」

 近衛兵はサウラーを促し、そのまま部屋を出て行った。サウラーもそれに従う。

 ――後には、しゃがみこんだままの審問官だけが残った。


 近衛兵は外へ出ると、止めてあった馬車に乗り込んだ。サウラーも続いて乗り込んだのを確認すると行者に手短に行き先を告げると馬車は進み始めた。

 外の景色は政府関係機関から、高級住宅街へと変わっていく。

「出ろ」

 そう言い、近衛兵は馬車を降りる。

「…………」

 サウラーも続いて馬車を降り、近衛兵が入っていった豪邸へと入る。

 庭園はきれいに整えられていたが、奇妙なほどに静かだった。

 屋敷もまた奇妙であった。――形は普通なのだが、色が純白だったのだ。

 サウラーは屋敷内を近衛兵の後ろに従って歩いた。


 屋敷内も純白だった。

 サウラーはこの屋敷にきたことを半ば後悔し始めた。

「……この中でしばらく待て」

 近衛兵はサウラーを扉の前まで案内すると立ち去っていった。

「…………」

 サウラーは重厚な両開きの扉の右側を開け、室内へ入った。


 その部屋も純白だった。置いてある装飾品、調度品も白系の色で統一されていた。

 サウラーは、テーブルをはさむように置いてあるソファーに座らず立ったままでいた。


「…………」

 待つこと一時間、サウラーは外に人の気配を感じた。

「……お待たせしました……?お掛けにならないのですか?」

 入ってきたのは一人の少女だった。ちなみに、その少女の服も白で統一されている。

「……では五分後に」

 外にいた先程の近衛兵はそう言い、扉を閉めた。

「……どうぞお掛けに」

 その少女は自分が座ってから、サウラーにも席を勧める。

「いやいい……それよりも、呼び出した用は何だ?」

 素気なく答えてからサウラーは今、一番疑問に思っていることを口にした。

「……私の名前はミン・ラル・フロム、クーロレー上院議長、ムド・ラル・フラムの娘です……そして、今日あなたが殺したはずのムフグミ・ミロー・フラムの妹です……ここまで言えばだいたいのご用件はわかりましたでしょ?」

「あぁ、複雑なことになることぐらいはな」

 複雑というのは父が政府の用心で、兄がテロリストのリーダーだということだ。

「……それで?」

 そして先を促す。

「父は兄を殺す気はありませんでした――それは私も同じです……父は何も言ってはよこしませんでしたが、私はあなたを許せません」

 言い切ったミンの瞳は憎悪に満ちていた――サウラーにとってはかわいいものだという程度でしかなかったが……

「……それで?どうするつもりだ?」

「?それはどういう……」

「ただ殺すだけではなく、どうやって生かさず殺さず苦痛を与えるか、だ。やるからには徹底的にやったほうが、身のためだ」

 サウラーの口調は淡々としており、他人事そのものだった。


「……と、言うわけで引き受けてくれるかね?」

「……まぁいいだろう」

 あのあと突然、ミンの父親であるムド・ラル・フラムが、部屋に入ってきて、開口一番に依頼をしてきたのだった。

 やはり議長ともなると、息子を殺した男でも、政治的地位のためなら何の気にもならないらしい――そして、ミンは五分経ったということで、半ば強制的に近衛兵に連れ出されていた。

 サウラーが同意するとムド――ムフグミそっくりの風貌だったが……は、満足そうにうなずくと立ち上がり、部屋から出て行った。


 今回依頼されたのは都市はずれにある遺跡の開かずの間と称される空間への侵入とルート確保だった。ムドはビル一つ消した男がミンの住む(幽閉されているといったほうが正しいが……)屋敷に連れて行かれたとの報告を聞き、慌ててきたらしかった。


 サウラーは一日ほどかけ用意を整えると、目的の遺跡のある遺跡群へと向かい、キャンプを張って、巧妙にカムフラージュをし終えると、目的の遺跡へと侵入した。

 そこで遺跡あらしとはちあってしまったのだった。

 サウラーは目的の扉の前に立つと、普通に押してみた――が、当たり前のように扉はびくともしない。

「…………」

 サウラーは少し考え、今度は懐からナイフを一本取り出すと、扉に突き刺しそのナイフの柄をつかんで扉を引いてみた。

 音もなく開く扉――ある意味古典的なギャグそのものである。

「……『押してだめなら引いてみろ』とはよく言ったものだな……」

 半ば投げやりな感じでそう言うと、サウラーは開かずの間へと入っていく。

 サウラーが入ると、後ろに位置する扉はかってに閉まり、サウラーは薄明かりに包まれた。

「?これは……」

 室内は年月が経ったとは思えないくらいきれいだった。壁や床にはひび罅一つなく、こけ苔一つ生えてはおらず、ちり塵一つ落ちていなかった――そして、その広さの割に中には、棺のようなもの一つしかなかった。

「…………」

 サウラーはしばらくその場にいたが、警戒しながらも、棺状の物のほうに近づく。

 ぷしゅゅゅゅゅゅゅゅ……

 ――不意に棺状の物から音がする。

「…………」

 警戒し、足を止めるサウラー。その右手には、太刀が一振り握られている。

 棺状の物の蓋と思しき物が徐々に開いていく。

「ヴァンパイアか?」

 思いついたことを口から発した直後、サウラーはわずかにさがっていた。

 ――ヴァンパイア、第二種亜人族に分類され吸血鬼とも呼ばれる種族で、人との外見上の差異は殆ど無い。しかし、長寿を実現するためかどうかはわからないが、消化吸収器官関係は特異化しており、その名のとおり血を吸い生命の糧としている。また魔道に関しても飛行など現代魔法では不可能な物理現象も起こすことができる。

 がんっ!!!

 棺状の物のふたと思しき物が完全に開き床に落ちる、中から18歳ごろの銀色の長い髪の少女が現れサウラーのほうを見る。

 ――その瞳には何の光もたたえていない。

「……汝、我と我に付随する力を望むものか?」

「ヘスティア……いや、そんなことは無いな………魔道人形か……」

 サウラーの驚きを伴った呟きは自身によって否定された。その少女――魔道人形はまったく意に介してはいなかったが。

 ――魔道人形、別の時空系列で言うところのバイオテクノロジーと、電子技術を足して二で割って、応用したような代物で、魔道工芸品と称されるものの一種である。魔道人形は職人の手によって作られるが、その大半は製作者の趣味が色濃く反映されているという。

「……その力望むなら、我が出す試しを打ち破ってみよ」

 サウラーを無視して、半ばかってに話を進める魔道人形、そしてその声とともにその魔道人形とサウラーの間にある床にいきなり罅が入り盛り上がる。

「……俺に……」

 サウラーは再び呟く、その間にも床は盛り上がり続ける。

「……過去を思い出せ、とでも言うのか……」

 そう言い終わるのとほぼ同時に、盛り上がっていた床の強度限界に達したのか崩れる――そして、中から三人の人影が踊りだした――すべて魔道人形だったが――その表面は人口蛋白のそれではなく、言わば無機物の塊だった。

 その三体の魔道人形は、サウラーを囲むようにして動く――が、サウラーはそれを上回る速度で、変則的に動き、三体のうち、一体の後ろに回り込み掌底を当てる。

「破ッ」

 ゴゥン!

 古代魔法の中でも比較的簡単な破滅ノ呪を相手の内部で発動させるサウラー。

 魔道人形は一瞬ビクッと動いたが、それっきり動かなくなる。サウラーはそれすら確認することなく残り二体の魔道人形に襲い掛かった。

 右から来る魔道人形を無造作に斬る――その装甲は紙のように斬れ、腰のあたりで、真っ二つになる、そしてサウラーは左手側から近づく魔道人形との距離を一気に詰める――が、それなりの学習機能があるのか、距離をとる魔道人形。

「…………」

 サウラーはさがった魔道人形に向けておもむろに太刀を振る――太刀から発生した衝撃波によって、残りの一体も行動不能となったのだった。



悪魔は神を倒せるか? 第零話−0

悪魔は神を倒せるか? 第零話−2


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