時速30kmの福祉(第1回)  
福祉相談員という立場で独立開業? そん な事できるの? 自分でも答えがわからない まま、2002年の3月に富山総合福祉研究 所という恐ろしい名前の法人を立ち上げてし まいました。そして、4月1日以降、富山県 からの指定を受けて、「やればやるほど赤字 になる」と言われている介護保険法上の居宅 介護支援事業(ケアマネジメントなどと言わ れます)を手がけています。  なにしろ、「やればやるほど赤字になる」 という話しなので、事業継続のためには切り つめられるところをことごとく切りつめなけ ればいけません。そこで、まず考えたのが交 通費の節約です。10年以上前の原動機付自 転車をひっぱり出してきて、移動の際にはな るべくこれに乗ってガソリン代を浮かせる事 にしました。上手に乗れば、ガソリン1リッ トルで70km走る優れもの、とても重宝し ています。  ところで、原動機付自転車で福祉相談のた め地域を回っていると、これまでとは違った 視点で見えてくるものがあるような気がして きました。そこで、「時速30kmの福祉」 というタイトルで、日頃の活動を通じて感じ たことなどを綴ってみようと思います。  本当に時速30kmで走っているの? と いう声がきこえてきそうですが、そこは信号 で止まったりしてるので、ならして30km という事で・・・。 く(^_^;) (毎月600字程度で継続できるか努力します)


時速30kmの福祉(第2回)  
梅雨に入って、気候がすっかり変わりまし た。原動機付自転車のエンジン音も、梅雨時 には微妙に濁ります。機械でさえ調子が狂う のですから、ましてや人間をや、です。訪問 する先々で、風邪をひいた、身体の節々が痛 くなったなどという声が聞こえてきます。  一旦しまったコタツを引っ張り出してきた り、上着をいつもより余計に着込んだりして 自衛できた人はいいのですが、拍子の悪い人 は入院を余儀なくされる事もあります。  入院という事で、最近耳にしたお話ですが、 入院期間中の一時帰宅時に介護保険の訪問介 護や訪問看護、ベッドなどのレンタルを利用 できない事が全国あちこちで問題になってい るとの事。たとえご自宅にいても医療制度上 は入院している事になっているので、介護保 険の「在宅」サービスは利用できないという わけです。ご家庭の事情によっては、在宅サ ービスを利用しなければ数日だけの在宅生活 も難しい場合があります。このような特殊な 場合は、入院期間中でも例外的に介護保険を 使えるように制度が変わればいいなぁと思い ます。また、介護保険制度が今のままでも、 入院医療機関の側が一時帰宅ではなく「再入 院を前提とした退院」の扱いにしてくれれば、 患者さんとご家族は助かるのですが・・・。  退院に向けて在宅生活をどう組み立てるか ケアマネジャーといっしょに考えていただけ る医療機関は増えてきましたが、一時帰宅に ついても同様の連携が進めばと思います。


時速30kmの福祉(第3回)  
8月に入り、富山大空襲の犠牲者を弔う花 火大会が開催された夜、私は要介護認定の手 続きのため、あるお年寄りのお宅におじゃま していました。その当時、幸い大沢野町にお られたため直接の被害には遭われなかったも のの、後日富山市街へ向かったところ、人の 身体がちょうどスルメイカのようにこげ縮ん で折り重なっているのを目撃されたそうです。  別のお年寄りからは、戦地で爆撃に遇い、 自分の隣にいた人が被弾して一瞬のうちに命 を落としたのに、自分はかすり傷ひとつせず、 ほんの数センチの位置の違いで命運が分かれ た事、残され生かされた事の意味を未だに考 え続けているというお話をうかがいました。  私は、高齢者福祉の世界で十数年生きてき ました。その間に、いくらか人の死というも のを身近に見てきたかも知れません。いのち は運命の前にいつも無力であり、人為の及ば ぬ力を思い知らされます。それだからこそ、 いまここに生かされている自らのいのち、他 者のいのちのかけがえのなさを痛感します。  戦争の体験を語り継ぐ人がいます。自らの 内に封じ込めてきた体験や思いを外に出す事 によって、私的な体験を人類共通の体験に昇 華させ、同時に自らの心の癒しとされます。  私はその語りを聞く度に、体験を内に引き 継ぎいまを生きる者としての責任に思いが至 ります。そして、自らが糧とする福祉という 仕事を通じてなにをなすべきか、自分はどこ まで出来ているかを反省させられます。


時速30kmの福祉(第4回)
 はやいもので、国際アルツハイマー病協会 が9月21日を世界アルツハイマーデーと決 めてからおよそ8年が経過しました。富山県 内では、毎年恒例の記念講演会が富山と高岡 で開催されました。今年は、「新しい家族関 係とぼけの介護」と題して東海学園大学の奈 倉教授より御講話をいただきました。  奈倉教授によれば、家族は一つの社会集団 であり、その構成員相互の人間関係と作用の 全体(システム)がどうなっているかを調べ、 悪循環に陥っているシステムを正常に機能さ せる事により、人間関係に根差す痴呆の随伴 症状を緩和できる場合があると説かれました。  痴呆は脳の問題という事で、「治療して治 らなければ仕方がない」と考えがちになりま すが、心理・社会的な面からの改善をシステ ム理論で試みる事の大切さを知りました。  また、これは家族だけにあてはまる事では なく、施設入所中の方と職員との関係も一つ の「システム」ですし、ご家族といっしょに 暮らしている方へのケアマネジャーやホーム ヘルパーなどからの関わりも、「システム」 への関わりとして捉え直すならば、システム 理論を学ぶ事は医療・保健・福祉関係者にと っても意義深いことであると思いました。


時速30kmの福祉(第5回)  
10月に入ってから、定期訪問で家々を回 らせていただいているうちに、通院するのを 止めたという方が多い事に気づきました。こ れまでは月1回の定期受診をしておられたの が、「このところ調子がいいから、年に1回 の健康診断だけでやめとくちゃ」と言われる 方や、もともと自分で加減して月2回の受診 を月1回にして半分しか薬を飲んでいなかっ た方も、「もうやめようかと思うて・・・」 とおっしゃいます。  これは、おそらく10月以降制度の改正で、 お年寄りの医療費の自己負担が実質的に増え たためだろうと思います。これまでの定額負 担が1割負担になり、診察代は減ったけれど も薬代が増えて、差し引き自己負担が増えた という声があちこちから聞こえてきます。  通院を止めても健康に支障のない方ばかり ならよいのですが、かかりつけのお医者さん に聞いてみると術後の経過を定期的に確認し なければならない方であったりします。そう ではない方でも、通院が滞って病態が悪化し て入院となり、日頃の健康管理に要する費用 以上の出費が結果的に必要となったり、住み 慣れた家での生活を断念するなどお金に代え られない損害を被る事にもなりかねません。 それは、ご本人にとっても不幸ですが、節約 するつもりがかえって財政を圧迫するという 意味で、政策として見ても不幸な事です。  生活の実態から出発した、下から根拠を積 み上げた医療・福祉政策の実行を望みます。


 塚本@富山総合福祉研究所です。先日配信しました 「時速30kmの福祉」でインフルエンザ予防接種の 地域割り問題を取り上げましたが、その後富山県より 各市町村の実態調査が予定されました他、大沢野町で は町外医療機関における接種にも補助の道が開かれま した。あと、北日本新聞10日朝刊でもこの問題が取 り上げられていました。他の市町村でも利用者本位の 柔軟な対応が拡がる事を望みます。  事後報告まで。 m(_ _)m


時速30kmの福祉  
1月12日、13日の2日間、静岡県浜松 市で、「独立・中立型介護支援専門員全国会 議」が開催され、当方も参加しました。この 会議は、ケアマネジメント一本で独立開業し たケアマネジャーかそれに準ずる人の集まり です。  ケアマネジメントは「やればやるほど赤字 になる」と言われていますので、普通に考え れば「あり得ない」人たちですが、それにも かかわらず、全国から20名以上の人たちが ケアマネジャー当事者として集まり、1日目 の総会で常設の全国協議会を設立しました。  2日目は一般参加自由だったのですが、北 は北海道から南は九州まで、ボランティアス タッフを含め100名ほどの参加があり、盛 会でした。  全国協議会では、ケアマネジャーの労働環 境の改善のための研究や政策提言、ケアマネ ジャー相互の研修、不適切なケアマネジメン トに関する苦情相談窓口の設置、第三者機関 主義(ケアマネジャーをケアサービス提供事 業者以外の第三者機関から選ぶ事)の普及啓 発などを事業目的に掲げています。  サービス利用者中心のケアマネジメント実 現に向けて、歴史的な一歩を踏み出しました。


時速30kmの福祉(9)  
1月下旬に新聞などで介護保険報酬改定案 が報じられて以降、4月からの利用者負担に ついてご相談を受ける事が多くなりました。  多くの一人暮らしの方が心配される事は、 訪問介護、わけても在宅での日常生活維持に 不可欠な家事援助の利用料負担です。改定案 によれば、1時間半の訪問を月8回利用して いる方の場合、1割の利用料で計算すると月 1,776円から2,328円で552円の 値上がりになります。  訪問介護利用料減額となっている方の場合、 3月までは月533円、4月から6月までは 699円、7月以降について政策に変更がな ければ減額割合が3%から6%に引き下げら れ、負担は1,397円とほぼ倍増する事と なります。  今回の報酬改定案で「家事援助」とされて いたものを「生活援助」とし、訪問介護事業 者への報酬を引き上げた事自体は制度改善の 側面があると思います。しかし、それが直ち に利用者側の負担に跳ね返ってしまうと、必 要なケアを受けられない方が出てきます。  応益負担の徹底は、実際の生活場面で公正 を損なう事になります。生活者の視点に立っ た制度の軌道修正が求められます。


時速30kmの福祉(第11回)  
前回お伝えした通院時等の車両への乗降介 助の問題について、3月27日に厚生労働省 から発表がありました。4月から通院できな くなるという利用者の不安の声が高まった事 から方針転換となり、これまで通り介護保険 を用いて通院して良い事になりました。  そこまでは良かったのですが、無償移送ボ ランティアを用いて前後の乗降介助を行う場 合は「公共交通機関等」の利用として身体介 護で算定できるとも解釈可能であるため、4 月度以降新設された通院時等の乗降介助10 0単位(本人利用料片道100円)のサービ スと身体介護をどう使い分ければよいのか分 からないという問題が新たに発生しました。  また、今回の発表で100単位サービスを タクシー営業許可なしで行ってよいという事 になったのですが、許可なしでは運賃をとれ ず、事業所として採算が合わない。結果とし て参入する事業所がなくてサービス量が不足 するという問題が依然として残りました。  もともと100単位の新サービスは、タク ー営業許可を受けた事業所向けに報酬を低く 抑えたサービスだったはずです。タクシー営 業許可を受けた事業所が100単位、そうで はない事業所が身体介護とはっきり分けてし まえば、問題は解決します。  いつまでも「グレーゾーン」として放置せ ず、国家として説明責任を果たすべきです。


時速30kmの福祉(第12回)  
3回連続で通院時等の車両への乗降介助の 問題についての話題です。  5月8日付で、この件についてあらためて 厚生労働省から各都道府県宛に通知が出され ました。それによると、 (1)要介護4と5の人は、通院時等の車両    への乗降介助は「身体介護」で行う。    ただし、連続して20分から30分程    度以上時間がかかる場合のみ認める。    その時間の中に運転時間は含まれない。 (2)要介護4と5の人で、時間が(1)の    長さに満たない介護を受ける場合は、    「通院等乗降介助」(100単位)で    行う。要介護1から3の人への介助は、    一律100単位で行う。 (3)ただし、入浴介助や食事介助などの外    出に直接関係のない介助が30分から    60分程度以上乗降介助の前や後につ    く場合は、(1)(2)に関わらず、    「身体介護」で行う事ができる。 (4)要支援の人は、公共交通機関等を用い    て外出する場合のみ「身体介護」で算    定できる。公共交通機関等を用いる場    合は、要介護度がどうであれ、「身体    介護」で算定できる。 (5)院内の移動介助などは医療機関で行う    事を原則とするが、それができないな    どの事情がある場合は訪問介護員が行    ってもよい。  といった内容です。ちょっと考えただけで も、公共交通機関としてタクシーを利用した 場合、要支援の人も含め要介護度がどうであ れ運賃をとって身体介護となるはずなのに、 一方で(2)の基準で通院等乗降介助とする という規定もあり、矛盾が生じます。通院等 乗降介助は運賃を介護保険で補填するタクシ ー業者を締め出すために設けたという厚生労 働省の説明が色あせて見えます。  また、障害を持っている方々にとって、入 浴した後直ちに通院するのはとても体力を消 耗する行為であり、通常は考えられません。 いかにも机上で考えられた基準の観がありま す。  社会的な理由で移動の自由が制限された人 たちに対して社会がいかにその自由を保障す るのか、その根本の解決から逃げて表面的な つじつま合わせでごまかす限り、この混乱は まだまだ続きそうです。


時速30kmの福祉(第13回)  
昨年の6月から月1回のペースで書き続け、 今年の6月が丁度1周年記念だったのですが、 多忙のため6月中に原稿を仕上げる事が出来 ず、とうとう初めて穴を空けてしまいました。  独立開業した昨年4月当初4件だったケア マネジメント担当件数は、本年7月1日時点 で50件、入院中の方や介護保険以外のサー ビスを利用しておられる方まで含めると80 件にまで増えました。訪問介護など何らかの サービスを持たないで、ケアマネジメントだ けで事業を興すことは到底不可能と言われて いた中で、やり方によっては順調に担当件数 を増やす事ができるという前例を残せた事は 幸いでした。  また、ケアマネジャーは時間もお金もない、 全国的な職能団体を自主的に作る能力はない と言われていた中で、本年1月、ケアマネジ ャーの中でも特に「あり得ない」はずのケア マネジメント1本の事業所のケアマネジャー の全国組織を盛会のうちに立ち上げ、当方も 副代表として運営に参加させていただく事に なりました。ケアマネジャーは自ら専門職と しての地位の向上を勝ちとる能力がある、運 動主体になり得るのだという事を内外に示す 事ができたという意味で、これも日本のケア マネジメントの歴史の中で画期となる出来事 だったと思います。  個別の相談に、そして職能団体の活動に奔 走しているうちに、とうとう時速30kmが 止まってしまった。しかし、角度を変えてみ ると、1周年記念にふさわしい喜ぶべきハブ ニングであったかもしれません。


時速30kmの福祉(第14回)  
8月5日、東京渋谷にある国連のILO駐 日事務所に行って来ました。ILOの提唱す るディーセントワークについて意見交換を行 うのが目的です。  ディーセントワークというのは、平たく言 えば「人間らしい労働(環境)」という事で す。本年4月以降、介護保険制度の一部が変 更となり、ケアマネジャーの長時間残業や過 労による故障など、これまで以上に問題が深 刻化しています。この問題を解決するために は、何が必要なのか。  ILO駐日代表の堀内さんによれば、ディ ーセントワークと女性の社会的地位には関連 があり、国際的に見ても女性が多く働く領域 において、賃金水準をはじめとする労働環境 にしばしば差別があるとの事です。介護労働 は、もともと家庭介護の領域でも女性がその 役割を強いられてきたため、二重の意味で差 別があるとも言えます。この方面の運動との 協働の必要性を再認識しました。  ILOでは、介護労働に関して2001年 に報告書を出しており、以降も継続調査を行 っていますが、ケアマネジメントの分野は未 だ白紙に近い状態です。堀内さんからのご助 言もあり、ILO本部(ジュネーブ)に対し、 調査研究の実施を訴えていきたいと思います。


時速30kmの福祉(第15回)  
9月に入って富山県の介護保険担当部局より連絡がありました。通院の送り迎えの訪問 介護について、計画の仕方がおかしいというご指摘でした。  県の担当者の方によれば、通院の送り迎えをして、その後にお風呂の介助をした割には 時間数が少ない、あり得ないとの事でした。また、通院なのに身体介護だけではなく、生 活援助(身体介護よりも低い単価のサービスです)が混ざっている計画は今まで見たこと がないとの事でした。  当方からは、距離的に遠い病院への通院であっても車両での移動時間は訪問介護費を算 定できない事、院内付添時間もすべて訪問介護費で算定できるわけではなく、検査時間や 診察時間は病院の直接管理下に入るため、訪問介護費を算定できない事、また、単にいっ しょにソファーに座っているだけの時間も訪問介護費を算定できない事をご説明し、それ らを差し引いて計画しているため書類上は時間が短くなって見える事をお伝えいたしまし た。  また、生活援助については、たとえば御本人がソファーに座ったままで、訪問介護員 (ヘルパー)が薬を受け取ったり、窓口で代わりに清算する場合は、運営基準上身体介護 では算定できず、買い物代行に準じて生活援助で算定すべきと考える旨お伝えしました。  その結果、当初の計画通りで良いとの県からの御所見を得たのですが、なんとも腑に落 ちない話しです。もし、本当は介護保険を使えない時間帯まで料金を請求されたり、低い 単価の生活援助で良いのに高い単価の身体介護で請求されたりして御本人・御家族が気づ かず、監査指導を行う県もそれを見逃しているとしたら問題だと思います。  通院の際の訪問介護サービスの利用についてはこのコーナーでも度々触れてきました。 4月以降まったく採算の合わない話で、訪問介護の事業者の方々には気の毒なことだとも 思っています。しかし、だからといって制度解釈で許される範囲を超えて不正に介護費を 請求してよいという事にはなりません。この問題は、いろいろな意味で「制度を正す」事 によって解決すべきだと考えます。




高岡発・介護問題研究会議