エクスチェンジ ストレッチャーのベッド部沈下防止装置の考案
                  

 1 はじめに
   救急隊が行う応急処置のなかに、生命維持に直接関わる「心肺蘇生法」がある。
   心肺蘇生法は、人工呼吸と心マッサージを併せた処置を言うが、中でも、心マッサージは、「脳」への血液循環を保つ上で、
  とても重要であることは言うまでもない。
   この「心マッサージ」を継続しながら、救急現場から救急車内に移動する場合には、ストレッチャーを「一定の高さ」に固定しな
  ければならない。
   けれども、移動しながらの心マッサージの実施は、ストレッチャーのベッ ド部に「沈み」が生じるため、心マッサージが不完全
  となり、「圧迫深さ」 も不安定となって、蘇生効果に悪影響を与えることも多々ある。
   なぜなら、心マッサージの効果は、硬い床上で完璧に行っても、「脳」へ の血流は、通常の25〜30%程度しか保たれないか
  らである。
   そこで、簡単な操作で装着でき、ストレッチャーで移動する際の心マッサ ージをより確実に行うため、この装置を考案した。

 2 現行の問題点
   現在、多くの高規格救急車に使用されているストレッチャーは、エクスチェンジストレッチャーである(図1・2)。
   このストレッチャーに収容した傷病者に対して、心肺蘇生法を継続しなが ら移動する場合、ベッド部の最適な高さは、心マッ
  サージの実施状況とストレッチャーの移動性を考慮すると、最上部から「5段目」である(図3)。
   しかし、この高さで心マッサージを実施して、図4のように@方向に加重が加わった際には、キャスターの前後移動(A・B)や
  フロントレッグ(脚 部)のパイプのしなり等からベッド部に「沈み」が生じて、心マッサージの 効果が薄れてしまう。
   このような場合、25〜30%の脳への血流は、20%・10%・5%と低下してしまうため、蘇生効果も薄れる状態に陥ることにつな
  がっていた。
 (参 考)
   私の現場活動での工夫は、心マッサージを担当する場合は、一旦軽く圧迫してベッド部をある程度降下させて、その後に圧迫
  している。
   また、人工呼吸の場合は、傷病者の頭頂部の横に片足をかけ、体重をかけて予めベッド部を降下させている。

 3 エクスチェンジストレッチャーの構造及び使用状況
  (1) 構造説明
     このストレッチャーは、ベッド部とアンダーキャリッジに分離でき、高さ調節が可能な構造となっている(図1・3)。
     また、各フロントレッグ(脚部)の最下部にキャスターが設けられているため、移動可能な構造となっている(図2)。
  (2) 高さ調節状況
     アンダーキャリッジは、ロックリリースハンドルの操作により、6段階に調節可能であり、地上面からベッド部上面及び圧迫
    面までの高さの実測結果から、心マッサージを継続してストレッチャーで移動する場合には、  「5段目」が最適であることが
    確認された(図3)。

 4 心マッサージ実施時におけるベッド部の沈下状況
   ストレッチャーのベッド部の高さを5段目に固定させ、傷病者(隊員−75 kg)に対して、実際に心マッサージを行った場合のベ
  ッド部の沈下状況を確認したところ、ベッド部の沈下状況は3〜4cmであった(図5)。
   なお、傷病者は生体であるため、胸部上面に畳んだシートを置き、その上にCPRボードを置いて、心マッサージを通常通りに行
  った。
   また、他の隊員数名にも、ストレッチャー上で同様な方法で心マッサージを実施したところ、体重が重いほどベッド部の沈下は
  増すことが確認された。

 5 考案装置の説明
  (1) 概要説明
     心マッサージ圧迫部位(ベッド裏面)から、地上に向かって垂直に2本の支持棒を簡単な操作で、前部キャスター横の支持
    バーに固定することにより、心マッサージ実施時におけるベッド部の沈下を防止する装置である(図6〜9)。
  (2) 構造説明
     両側を角棒とした支持バーに支持棒を図6のように設け、支持バーが容易に回転できる構造とした。
     この角棒部分には、上端に角パイプを一体型に設けた支持棒をスライド可能な状態に設け、どちらか一方の支持棒を操作
    することで、反対側の支持棒も相似状態で固定金具付近まで移動する構造とした(図6〜8・10)。
  (3) 装着時の説明
     この装置を使用しない場合は、2本の支持棒は各メインフレームと平行に接するように収納し、使用時には左右どちらかの
    支持棒をメインフレームから容易に取り外せるとともに、この一方の支持棒を外した時点で反対  側の支持棒も同時に外れ
    る構造とした(図10)。
     次に、支持棒が地上に垂直になった時点で、この支持棒をストレッチャー中央部に向かってスライド移動させると、反対側の
    支持棒もメインフレームと角パイプに各々固定してあるワイヤーにお互いが牽引され、同一距  離を相似状にスライド移動す
    る(図11)。
     この支持棒が、キャスター横の支持バーに設けてある固定用金具の付近に位置した時点で、支持棒下端のフックを固定金
    具に順次装着して固定する(図7〜9)。
  (4) 解除の説明
     車内収容等のため、ストレッチャーのベッド部を引き上げると同時に、支持棒下端のフックが固定金具から自然に抜け出る
    構造となっているため、解除操作は全く不要である(図8)。
     また、この固定金具からフックが抜け出ると同時に、メインフレームと角パイプに設けた牽引用バネが作用して、両支持棒は、
    地上に対して垂直状態を保ったまま、各メインフレームに接するまで牽引される(図12)。
  (5) 車内収容状況の説明
     車内に収容する際には、ストレッチャーの構造上、ベッド部を一旦最上段まで引き上げなければならず、また、両脚部は車内
    収容とともに後方に重なり合うようにたたみ込まれる構造となっている(図13)。
     この時、前脚部と後脚部との間に、横方向に約2cm程度のスペースが生じるため、脚部上端が後方にスライド移動することで、
    このスペース内に各支持棒が自然に入り込む構造とした。
     このため、車内収容時における操作には全く支障なく、この場合もなんら操作を要しない。

 6 考案装置装着の効果
    この装置の装着状況は、今回はストレッチャーを改造できないため、本装置の設置予定とする位置に仮設置した。
    次に、実際の効果を確認するため、木製の支持棒2本を本装置の支持棒が固定される位置とほぼ同一位置に固定して、心マ
   ッサージを繰り返し実施したところ、次のとおりの結果が得られた(図5・14)。
    なお、今回は、両支持棒の上端に接するアンダーキャリッジのパイプバーが細くて柔軟であったため、支持棒装着時の沈みが
   若干大きくなった。

  <体重75kgでの実測結果>
支持棒なし 支持棒あり(2本)
ベッド部の沈下状況 3〜4 cm 0.5〜1 cm程度

 ※ このことにより、本装置を装着することで、ストレッチャーでの移動中における心マッサージは、確実で安定して継続できることが
   確認された。

 7 特 徴
  (1) 移動時における心マッサージが確実に行える。
  (2) 装着操作が簡単である。
  (3) 解除操作及び車内収容時の操作が不要である。
  (4) 万一、心マッサージ実施中にフックが外れた場合でも、これまで通りの効果がある。

 8 おわりに
   この考案装置が普及することで、「尊い生命」に対する救命処置効果が高まり、蘇生する人が一人でも多くなれば幸いに思う。