種々薬帳

天平8年5月2日 聖武大上天皇お亡くなりになる。
天平8年6月21日以降 聖武大上天皇の四十九日(七七日)に、聖武大上天皇天皇の遺品を東大寺・法隆
寺など18寺に施入

正倉院の『種々薬帳』       解説  真柳 誠 

真柳先生の すばらしいページです
まずココを見てください



東大寺献物帳

            天平勝宝八歳六月二一日献物帳。別名「国家珍宝帳」
            天平勝宝八歳六月二一日献物帳。別名「種々薬帳」
            天平勝宝八歳七月二六日献物帳。別名「屏風花氈等帳」
            天平宝字二年六月 一日献物帳。別名「大小王真跡帳」
            天平宝字二年10月一日献物帳。別名「藤原公真跡屏風帳」

種々薬帳

署名した人

藤原朝臣仲麻呂 従二位 行 兼 紫薇令 中衛大将 近江守
藤原朝臣永手   従三位 左京大夫 兼 侍従 大倭守 
巨満朝臣福信   従四位上 行 紫薇少弼 兼 中衛少将 山背守
賀茂朝臣角足   紫微大忠 正五位下 兼 行左兵衛率 左右馬監
葛木連戸主     行 紫微少忠 

第一櫃
麝香(ジャコウ)(上薬) 振興剤 強心剤 薫香用 42両 588g 中国華北地域産 現存
ジャコウジカ(シカ科)の雄の下腹部にある性分泌嚢の内容物。強心剤として用いられるほか、小児のひきつけ、意識混濁、ショック、食中毒の治療に使われました。また、香料としても利用されました。ジャコウジカは現在ではワシントン条約によって、その捕獲が制限されています。
犀角(サイカク)(中薬)2斤12両一部617.5g一斤9両二部356g 一斤14両2部419g 亡失
残存しない。正倉院の犀角はインドイッカクサイ(サイ)の角と考えられている。『神農本草経』によれば、「百毒、瘴気などをつかさどる。鈎吻、鴆羽、蛇の毒を殺す」と記されています。
犀角(サイカク)(中薬) 解熱剤 解毒剤 6斤13両 1520g 中国華南地域産 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産 亡失
種々薬帳には(サイカク)が二つ続いています。どちらも現存していないので、同じ物か違っているものか解かりません。部位が違っていたのでしょうか。
犀角器(サイカクキ) 解熱剤 解毒剤 9両3分 136,5g 現存
インドイッカクサイ(サイ科)の角で作った杯です。「犀角」は毒性を消すといわれ、飲用の器として犀角製の杯は重用されました。
朴消(ボクショウ) (上薬) 下剤 7斤 1561g 中国華北地域産 亡失
主成分は含水硫化ナトリウムと考えられています。『神農本草経』には「寒熱の邪気を除く、六腑の積聚(消化不良から来る胃痛)などの薬効が記載されています。便秘に対しても用いられたようです。
ズヰ核(ズイカク) (上薬) 眼疾剤 5斤 1115g 中国華北地域産 現存
扁核木(バラ科)の成熟した果実の種子。種子からとった脂肪脂を灯用、食用として用いますが、薬用としては、眼疾患に効果があるとされています。
小草(ショウソウ) (上薬) 皮膚腫瘍 2斤4両 502g 中国華北地域産
イヌキケケシマン(ケシ科)が納められていますが、現在ではビャクダン科のカナビキソウも小草の基原植物としてあてています。カナビキソウの場合、薬用には全草を用い、皮膚腫瘍、扁桃腺炎、上気道感染、肺腫瘍、急性乳腺炎、賢虚による腰痛、めまい、遺精の治療に使われ、体の中の熱をとる作用があるとされています。
畢撥(ヒハツ) 滋養・強壮剤 3斤15両 879g 中国華南地域産 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  現存
ヒハツ(コショウ科)の茎と根茎が残っていますが、現在ではその未熟な果実が薬用に用いられ、滋養強壮、冷えによる腹痛、下痢の治療に使われます。
胡椒(コショウ) 健胃、消化、整腸剤 薫香用 3斤9両 795g タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  現存
現在でも香辛料として使われているコショウ(コショウ科)です。果実を薬用としますが、食欲不振、胃痛に効果があり、胃の冷えによる謳吐、下痢の治療に使われます。
10寒水石(カンスイセキ) 解熱剤 消炎・止渇剤 (中薬)18斤8両 4126g 鉱物性生薬 中国華北地域産 現存
方解石(主成分は炭酸カルシュウム)です、『神農本草経』では凝酸い石の名で記載されており、その効用は「身熱、腹中の積聚による邪気、皮膚のやけど様になるもの」にあると書かれています。内服薬としては、のどの渇き、高熱、煩躁状態に、外用としては、熱傷(やけど)に対して使われました。
11阿麻勒(アマロク) 消炎・止渇剤 9両3分 136.5g 植物性生薬 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  亡失
残存していませんが、アムラタマゴノキ(コショウ科)の果実と考えられています。消炎止渇作用があるとされていますが、現在では生薬としては流通していません。
12菴麻羅(アンマラ) 収斂・止瀉剤 15両 210g 植物性生薬 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  現存
アンマロクウカン(トウダイグサ科)の果実片・種子です。現在では余甘子という名で呼ばれており、根や葉も薬用に用いられています。果実は感冒発熱、咳、喉の痛み、葉は湿疹、むくみ、根は高血圧、胃病の治療に使われます。
13黒黄連(コクオウレン)  解熱剤 3斤669g 植物性生薬 中国華北地域産 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  現存
コオウレン(ゴマノハグサ科)の根茎です。現在は胡黄連という名称で流通しています。細菌性の下痢、結核、あるいは栄養失調などによる発熱、寝汗の治療に使われます。で
14元青(ゲンセイ) 駆?血剤 外用(皮膚)剤 外用(皮膚)剤 4両2分 63g 中国華北地域産  動物性生薬 亡失
ツチハンミョウ科アオハンミョウ属の昆虫と考えられています。神農本草経」』には記載されていませんが、「名医別録」には「胎を堕す」、「本草綱目」には「小水を利す」などとともに、「狂犬による傷毒を治す」と書かれています。皮膚の化膿症、むくみ、黄疸などに対して外用されます。
15青草冠に相草(セイショウソウ) 外用(皮膚)剤 1斤14両419g 『神農本草経』下薬 植物性生薬 中国華北地域産 中国華中地域産 亡失
残存していませんが、ノゲイトウ(ヒユ科)の茎と葉が納められていたと考えられています。現在では、その種子が生薬名セイショウシで、眼疾患、皮膚のかゆみの治療に使われています。
16白皮(ハクヒ) (下薬) 止血剤 9斤6両 2091g 植物性生薬 亡失
シラン(ラン科)の球根と考えられています。白皮という名の生薬は存在しないことから、「白及」の誤記の可能性があります。下薬としたのは、白及の場合です。白及は球茎の粉末を外傷・腫れ物に止血薬として外用し、肺結核の喀血に粉末を内服薬として用います。
17理石(リセキ) 解熱剤 消炎・止渇剤 (中薬) 5斤7両 1213g 鉱物性生薬 中国華北地域産 現存
繊維状石膏(主成分は含水硫酸カルシュウム)です。『神農本草経』には「身熱を利し煩を解く、精を益し目を明らかにする。積衆を破る、三虫を去る」と書かれています。煩渇、高熱によるけいれん、皮膚のかゆみ、のどの痛みに対して使われました。
18禹餘粮(ウヨリョウ) 上薬  収斂・止瀉剤 1斤9両2分 356g  鉱物性生薬 中国華中地域産 亡失
『神農本草経』では褐鉄鉱質の皮殻の内部に含まれる鉄分の含有量の低い、白色、褐色の粘土で、東海の池沢に産するとされています。同書では「咳逆、寒熱煩満、血閉チョウカ、大熱を治す。慢性的な下痢、子宮出血、こしけ、痔ろうに対して使われました。
19大一禹餘粮(ダイイチウヨロウ) 上薬 収斂・止瀉剤 2斤12両 614g 鉱物性生薬 中国華中地域産 現存
褐鉄鉱質の皮殻内部に含まれる、鉄分の含有量の高い、赤色、紫色の粘土と考えられるが、現存しているのは皮殻のみで、内部の粘土質物質は失われており詳細は不明です。『神農本草経』では大山の山谷に産するとして禹餘粮と区別していますが、適用は同じです。
20龍骨(竜骨) 上薬 鎮静・鎮痙・鎮痛剤 10斤 2230g 化石生薬 中国華北地域産 現存
本来、漢方でいう竜骨とはゾウ、サイ、三趾馬などの古代哺乳類の骨の化石ですが、化石鹿の角が納められています。また、一部歯、骨、象歯、象牙の化石も含まれています。『神農本草経』には薬効として「咳逆、泄痢膿血(膿血をともなう水様性下痢)」などが書かれています。内用としてはてんかん、神経症、不眠、寝汗、遺精に、外用としては皮膚の遺傷、分泌物の多い湿疹に対して使われました。
21五色龍骨(ゴシキリュウコツ)  鎮静・鎮痙・鎮痛剤 7斤11両 1715g 化石生薬 亡失
残存していませんが、竜骨、白竜骨と同じ化石鹿です。「五色」とあるのは色が雑色を帯びているからと考えられています。竜骨と同じように使われました。
22白龍骨(ハクリュウコツ) 鎮静・鎮痙・鎮痛剤 5斤 1115g 化石生薬  現存
化石鹿の四肢骨、角の断片です。竜骨と同じように使われました。中国華北地域産
23龍角(リュウカク) 鎮静・鎮痙・鎮痛剤 10斤 2230g  化石生薬 中国華北地域産 現存
インド産の化石鹿の角といわれています。やはり、竜骨と同じように使われました。
24五色竜歯(ゴシキリュウシ) 上薬 鎮静・鎮痙・鎮痛剤 24斤 5352g 化石生薬 中国華北地域産 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  現存
インドからの渡来品と思われます。大小二個あり、大きいものはほぼ完全な形のナウマン象の第三臼歯です。他の薬物と配合したり、竜骨と同じように使われました。
25似竜骨石(ニリュウコツセキ) 用途不明 27斤 6021g 化石生薬 現存
明治年間の整理の際に、「鉱石数種」としてまとめてあったもののなかから「竜骨に似ている石」が発見され,これが「種々薬帳」記載の「似竜骨石」であるだろうとされていました。しかし、これはその淡褐色の表面に木目が見られることから、化石木といわれています。
26雷丸(ライガン) 下薬 駆虫剤 8斤4両 1840g 植物性生薬 中国華中地域産 現存
和名ライガン菌(サルノコシカケ科)の菌核(保続性菌体)です。『神農本草経』には「三虫(条虫、鉤虫、蟯虫)を殺す」とありますが、現在でも寄生虫である条虫による疾患の治療に使います。
27鬼臼(キキュウ) 下薬 鎮静・鎮痙・鎮痛剤 解毒剤 12両3分 178.5g  植物性生薬 中国華中地域産 中国華南地域産 現存
マルバタマノカンザシ(ユリ科)の根茎が納められました。現在では、鬼臼はハスノハクサ(メギ科)を指します。ハスノハクサである鬼臼は鎮静・鎮痛・鎮痙作用があります。
28青石脂(セイセキシ) 上薬 収斂・止瀉剤  6両 84g 中国華北地域産 亡失
残存していませんが、青色をおびた粘土と考えられています。「石脂」には白色、黄色、赤色、青色。黒色があり、これらをまとめて「五色石脂」と呼びます。「青石脂」はそのひとつです。成分はケイ酸アルミニウムで、その収斂作用から、内用としては慢性の下痢や血便、脱肛、遺精、子宮出血に対して、外用としては外傷、皮膚遺傷に対して用いられました。
29紫鑛(シコウ) 駆?血剤 60斤 13380g 動物性生薬 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産 トルコ・シリア・ペルシャ産   現存
ラックカイガラムシ(ラックカイガラムシ科)の雌が、木の枝に分泌する樹脂状物質です。『中薬大辞典』によれば、「清熱する、血を涼める、解毒する。の効能がある」と書かれています。内用または外用することで出血を止めたり、湿疹への外用薬として使用されます。
30赤石脂(シャクセキシ) 上薬 7斤二両 1589g 鉱物性生薬 中国華北地域産 現存
赤色をおびた粘土で、「五色石脂」のひとつです。主成分は二酸化ケイ素焼く5パーセント、酸化アルミニウム約12パーセントなどで、青石脂と同じように使われました。
第2櫃
31鍾乳床(ショウニュウショウ) 上薬 滋養・強壮剤 10斤 2230g 鉱物性生薬 中国華北地域産 中国華中地域産  現存
「鍾乳石」のことで、炭酸カルシュウムを主成分とする「方解石」の集合体です。『神農本草経』には石鐘乳と記載され、薬効としては「咳逆上気を主る、目を明らかにし精を益す、五臓を安らげる、百節(全身の関節)を通す、乳汁を下す」などがあげられています。滋養強壮のほか、インポテンツ、乳汁分泌不足に対して使われました。
32檳榔子(ビンロウジ) 収斂・止瀉剤 駆虫剤 700枚 植物性生薬 中国華南地域産 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  現存
ビンロウ(ヤシ科)の種子です。寄生虫による疾患、腹満感、下痢、しぶり腹,悪心、謳吐、腹痛の治療に用います。東南アジアや、台湾などに、咀嚼性の嗜好品がありますが、これは檳榔子に阿仙薬(アカネ科のガンビール)を水で練って石灰を加えたものを塗り、キンマ(コショウ科の植物)の葉で包んだものです。麻酔的な効果があり、気分が爽快になって、陶酔感が得られるといわれています。噛むと口の中が赤くなることで知られています。
33宍縦容(ニクジュヨウ) 上薬 滋養・強壮剤 30斤 6690g 中国華北地域産 亡失
ホンオニク(ハマウツボ科)の肉質の茎と考えられています。現在は肉縦容と表記され、滋養強壮や疲労倦怠の回復に用いられます。
34巴豆(ハズ) 下薬 下剤・吐剤 18斤 4014g  植物性生薬 中国華南地域産 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  現存
トウダイグサ科)の種子です。便秘、とくに小児の便秘や浮腫、腹水の治療に使われます。かなり作用が激しい生薬です。
35無食子(ムショクシ) 収斂・止瀉剤 鎮咳・去痰剤 1073枚 トルコ・シリア・ペルシャ産  現存
没食子のこと。タンニンを含む収斂有名な生薬。収斂止瀉薬として頻用されていたようです。
36厚朴(コウボク)  中薬 健胃、消化、整腸剤 鎮咳・去痰剤 13斤8両 植物性生薬 中国華中地域産 中国華南地域産  現存
モクレン科のモクレン属の植物が現在では生薬厚朴の現植物です。正倉院に残る厚朴はモクレン属の特性を示しませんので、再調査が必要といわれています。現在生薬として主に流通しているのはわが国自生のホオノキの樹皮(和厚朴)で、腹満感、腹痛、喘咳の治療に使われています。
37遠志(オンジ) 上薬 鎮咳・去痰剤 滋養・強壮剤 20斤4両 4516g 植物性生薬 中国華北地域産 現存
イトヒメハギ(ヒメハギ科)の根です。咳嗽、滋養強壮薬として用いられています。また、おわゆるボケにも効果があるといわれています。
38呵梨勒(カリロク) 薫香用 1000枚 収斂・止瀉剤 植物性生薬 中国華南地域産 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  現存
カラカシ(唐呵子)・ミロバランノキ(シクンシか)の果実です。腹痛、喉や口内の痛み、慢性の下痢、咳、声のかすれなどの治療に使われます。

第3〜5櫃
39桂心(ケイシン) 上薬 健胃、消化、整腸剤 発汗剤 薫香用 560斤 124880g 植物性生薬 中国華南地域産 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  現存
ケイ(クスノキ科)の樹皮で、『神農本草経』には菌桂、牡桂の名称で出ています。香料、香辛料としても使われますが、発汗、解熱、健胃、鎮痛、鎮静などの作用があり、風邪、頭痛、身体疼痛、食欲不振、のぼせなどの治療に使われます。香辛料としてはシナモンの名で知られ、各種の菓子や清涼飲料、料理に用いられます。

第6〜8櫃
40草冠に元花(ゲンカ) 下薬 下剤 鎮咳・去痰剤 324斤2両 72280g 植物性生薬 中国華中地域産  現存
フジモドキ(ジンチョウゲ科)の花蕾です。鎮咳去痰、咳嗽、便秘に適用されています。

第9〜11櫃
41人参(ニンジン) 上薬 振興剤 544斤7両 121410g 植物性生薬 中国華北地域産 現存
チョウセンニンジン(ウコギ科)の根です。胃の衰弱による新陳代謝の低下を回復・向上させ、強壮作用があります。現在でも人気の高い生薬で、栄養ドリンク剤などに配合されています。また、これを焼酎などにつけたものは薬用酒として用いられています。有効成分とされるニンジンサポニンには、精神安定作用も認められています。

第12〜14櫃
42大黄(ダイオウ) 下薬 下剤 991斤8両 221105g 植物性生薬 中国華北地域産 現存
ダイオウ(タデ科)の根茎です。正倉院に残る大黄は重質綿紋大黄とされています。便秘改善に用いられます。

第15・16櫃
43臈密(ロウミツ) 上薬 外用(皮膚)剤 滋養・強壮剤 593斤4両 132295g 動物性生薬 中国華北地域産 現存
トウヨウミツバチ)ハチ科)の巣から蜂蜜を取り、残りの巣を加熱して得られる蜜蝋です。『神農本草経』では、蜜蝋と記載されています。滋養強壮作用があるとされていました。現在では皮膚外用薬の軟膏基剤として使われます。

第17〜19櫃
44甘草(カンゾウ) 上薬 緩和剤 960斤 214080g 植物性生薬 中国華北地域産 現存
カンゾウ(マメ科)の根です。正倉院に残るのはウラルカンゾウと呼ばれるものです。筋肉のひきつれ、、急性の腹痛、胃の潰瘍、喘咳、のどの渇きなどの治療に使われます。また、ほかの生薬の刺激性や毒性を緩和するために配合したり、甘味料としても使われています。漢方薬の70パーセントに配合されています。

第20櫃
45芒消(ボウショウ)  下剤 127斤8両 28433g 鉱物性生薬 中国華北地域産 現存 
純粋な含水硫酸マグネシュウムです。『名医別録』によれば、「五臓の積聚、久熱胃閉を治す」などの薬効があるとされています。主に便秘に対して用いられました。江戸時代以降の「芒消」は含水硫酸ナトリュウムを指し、近代では芒消と朴消を区別することはなくなりました。
46蔗糖(ショトウ) 緩和剤 2斤12両3分 624.3g   植物性生薬 中国華南地域産 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  亡失
現存していませんが、サトウキビ(イネ科)の茎から得られる、いわゆる砂糖です。のどの渇きや喘咳、疲労の回復に用いられます。
47紫雪(シセツ) 解毒剤 13斤15両  配合薬 亡失
奈良時代の薬を代表する配合剤です。金属(黄金)、鉱物性生薬八種(朱砂=硫化水銀、寒水石=主に方解石・炭酸カルシュウム、磁石=磁鉄鉱、石膏=主に硫酸カルシューム、滑石=主としてケイ酸アルミニウム、朴消=硫酸ナトリウム、硝石=主として硝酸カリウム)、植物性生薬六種(青木香、沈香、丁香、玄参、升麻、甘草)、動物性生薬三種(羚羊角屑、犀角屑、麝香、当門子)合計一七種の生薬が配合された金石薬です。奈良時代を代表する万能薬とされていますが、金石薬の解毒のほか、脚気などに対しても用いられたようです。紫雪の初見は千金翼方(唐の時代の660年頃孫思?が著す)宋代に出版された『和剤局方』17種の薬物を混ぜた紫色の、霜や雪を思わせる粉末剤。
48胡同律(コドウリツ) 下剤 吐剤 9斤6両 5352g 植物性生薬 現存
納められた薬物が樹脂の乾燥品であるため、学術調査でも、どのような植物に由来するのかは不明とされています。現在胡同涙と呼ばれる生薬と同じであることは間違いないようですが、それは胡楊(ヤナギ科)の樹脂を乾燥させたものです。のどの腫れ、胃痛、胃・十二指腸潰瘍の治療や歯痛のうがい水として使われています。大量に使用すると、吐き気を催すことがあります。
49石塩(セキエン) 吐剤 9斤3両 2049g 鉱物性生薬 中国華北地域産 亡失
残存していません。『新修本草』には光明塩の名で記載されています。岩塩の一種で主成分は塩化ナトリュウムです。同書には薬効として「頭痛諸風、目赤痛、?泪(目やにや涙)の多いものを治す』と書かれています。尿不利、歯肉出血、歯痛、結膜炎に対して使われました。
50けもの篇に胃皮(イヒ) 中薬 3枚 収斂・止瀉剤 動物性生薬 亡失
残存していませんが、ハリネズミ(ハリネズミ科)の皮と考えられています。『神農本草経』には、五痔(牡痔、牝痔、腸痔、脈痔、血痔)に薬効あると記されており、痔疾、整腸、止血に用いられました。
51新羅羊脂(シラギヨウシ) 外用(皮膚)剤 滋養・強壮剤 1斤8両3分 345.5g  動物性生薬 朝鮮半島? 亡失
残存していません。薬物名から、新羅産の羊の脂と思われますが、中国の本草書には記載されていません。唐の医学書『千金方』によると、産前産後の滋養剤として繁用されました。 
52防葵(ボウキ) 健胃、消化、整腸剤 上薬 24斤8両 5464g  植物性生薬 中国華北地域産 亡失
残存していません。セリ科の植物と考えられていますが不明です。現在流通する防葵はツヅラフジ科のシマサスノハカヅラで、『神農本草経』には、「風寒温瘧、熱気諸癇を治す。邪を除く、大小便を利す」と記されています。整腸、利尿作用があり、てんかん、下痢、尿不利などの治療に用いられます。
53雲母粉(ウンモフン) 解熱剤 上薬 9両 126g 鉱物性生薬 中国華中地域 現存
ケイ酸塩鉱物です。滋賀県産の「白雲母」と成分構成がほぼ一致します。『神農本草経』には、「身皮死肌、中風で寒熱ともにあり、あたかも車や船酔いのような状態を治し、邪気を除き五臓を安らげ、子の精を益す」と書かれています。内用としては解熱、喘息、こしけに使われ、強壮作用もあるとされています。外用としては切傷、出血、おできに対して使われました。
54密陀僧(ミツダソウ) 外用(皮膚)剤 8斤10両 1924g  鉱物性生薬 トルコ・シリア・ペルシャ産 亡失
現存していませんが、生薬としての密陀僧は一酸化鉛のことです。『新修本草』によれば、「長期の下痢、五痔、切傷を主る」とされています。また、『本草綱目』によれば、嘔吐、消渇(糖尿病)、下痢、止血、殺虫などにも薬効があるとされています。外用薬として痔、湿疹、腫れ物、ただれ、わきがに対して用いられました。防腐作用もあるとされています。
55戎塩(ジュエン)利尿・駆水剤 下薬 8斤11両 1938g 鉱物性生薬 中国華北地域産 現存
淡褐色の粉末状物質で、石膏、硫酸ナトリュウム、食塩、塩化カリュウム、ホウ酸マグネシュウムなどの水溶性成分の混合物です。石塩と同じように使われました。
56金石陵(キンセキリョウ) 解毒剤 8斤1両 1798g 配合薬 亡失
紫雪と同様の金石薬で、朴消、石膏、凝水石(寒水石)、芒消などを配合しています。金石薬の解毒に使われたようです。
57石水氷(セキスイヒョウ) 解毒剤 5斤 1115g 配合薬 亡失
『千金翼方』にある配合薬「七水凌」ではないかとみられています。処方内容は朴消、芒消、滑石、凝水石(寒水石)、玉泉石などです。これもやはり金石薬の解毒に使われたようです。
58内薬(ナイヤク) 用途不明 1斤1両1分 240.5g 配合薬 亡失
所属不明、詳細もわかりません。 

第21櫃
59狼毒(ロウドク) 下薬 鎮咳・去痰剤 外用(皮膚)剤 42斤12両 9534g 植物性生薬 中国華北地域産 亡失
残存していないため不明な部分が多いのですが、原植物としては、クワズイマ(サトイモ科)、マルミノウルシ(トウダイグサ科)、瑞香狼毒(ジンチョウゲ科)が考えられます。使用部位はクワズイモは根茎、ほかの二つは根です。喘咳、寒気による種々の痛み、リンパ腺腫に、外用としては皮膚病やそのかゆみ、疥癬に対して用いられます。また、かってはその強い毒性から殺鼠剤、ウジの駆除に利用されました。現在では生薬としては流通していません。
60冶葛(ヤカツ) 利尿・駆水剤 鎮静・鎮痙・鎮痛剤 外用(皮膚)剤 下薬 32斤 7136g 植物性生薬 中国華南地域産 タイ、ベトナム、インド、南海諸島産  現存
中国では断腸草あるいは胡蔓藤(フジウツギ科)と呼ばれる植物の根です。『神脳本草経』には、鈎吻という名称で収載され、金瘡(刀傷)、乳ヤマイダレ至(乳房炎),悪風(風邪)、咳逆上中気、水腫に薬効があるとされています。また、その強い毒性から鳥獣捕獲や殺虫剤としても利用されました。現在では生薬としては流通していません。前掲の狼毒とこの冶葛は、正倉院薬物の中では異色の存在です。

献納後の冶葛  出庫の状況

和暦 西暦 冶葛
献納時
天平勝宝8
756 32斤(7・14kg) 7140g
出庫 残量
天平宝字2 758 3両(42g) 7098g
天平宝字5 761 3斤(669g) 6429g
宝亀10 779 4両(56g) 6373g
弘仁2 811 . 2467g
斉衡3 856 . 607g



種々薬帳の終わりの所
署名の前の所
「以上は堂内に安置し、盧舎那仏に供養す。若し病苦に縁りて用うべきものあらば、並びに僧綱に知らせて後、充て用うることを聴さん。伏して願わくは、この薬を服する者、万病悉く除かれ、千苦皆救われ、諸善成就し、諸悪断却し、業道に非ざるよりは長じて夭折するなく遂に命終の後、(蓮)花蔵世界に往生し、盧舎那仏に面し奉らしめ、必ず遍法界位を証得せんと欲する」
柴田承二氏論文 『正倉院薬物とその科学的調査』より

此れによりますと、僧綱に云えばお薬が使えるようです。薬を使う人について何も制限がないようです。文面からは誰でもお薬が使えたようですね。そしてこのお薬を使った人が皆快癒し幸せな人生を送り、死後も極楽へ行けるように願っておいでです。光明皇后は凄いお方だなあ〜と、思うのです。

種々薬帳全面に、天皇の御璽が押されています。
異様な迫力があります。
正倉院薬物の世界  鳥越泰義 平凡社新書


天平宝字六月七日丑、天平応真正皇太后崩りましぬ。姓は藤原氏。近江朝の大織冠内大臣鎌足の孫、平城朝の贈正一位太政不比等大臣不比等の女なり。母を贈正一位県犬養橘宿禰三千代と言ふ。皇太后、幼くして聡慧にして、早く声誉を播けり。勝宝感神聖武天皇儲弐とありし日、納れて妃としたまふ。時に年十六。衆御を接引して、皆、その歓を尽くし、まさしく礼訓にならひ、あつく仏道を崇む。神亀元年、聖武皇帝位につきたまひて、正一位を授け、大夫人としたまふ。高野天皇と皇太子とを生む。その皇太子は誕れて三月にして、立ちて皇太子と為る。神亀五年、いのちみじかくして薨しき。時に年二。天平元年、大夫人を尊びて皇后となす。湯沐の外、更に別封一千戸と、高野天皇の東宮に封一千戸とを加ふ。太后、仁慈にして、志、物を救うに在り。東大寺と天下の国分寺とを創建するは、本、太后の勧めし所なり。また、悲田・施薬の両院を設けて、天下の飢ゑ病める徒を療し養す。勝宝元年、高野天皇、禅を受け、皇后宮職を改めて紫微中臺と言う。勲賢を妙選して、臺司に並列ねたり。宝字二年、尊号を上りて天平応ず真皇太后と言ふ。中臺を改めて坤宮官と言ふ。崩する時、春秋六十。
                  続紀・天平宝字六月七日丑・新日本古典文学大系

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