石冠・土冠

「石冠」の名称が何時の頃から使用されたかは定かではないが、明治20年代に神田淡厓によって呼称されている。飛騨で古来より呼称されていたことに由来するらしい。
分布状況を概観すると、中部山岳地方を中心とした地域に集中している。とりわけ岐阜県には出土点数の約五分の一が集中し、富山湾にそそぐ神通川・庄川流域は濃密である。出土点数の80%は愛知・長野・岐阜・石川・富山・新潟の各県に集中しており、中部山岳地方とかかわりの深い各県と日本海側に分布している。琵琶湖・湖西線の建設に伴う遺跡でⅡ類に属する遺物が出土しており、分布圏における西端を示す。
用途については
  A実用的生活用具
   (1)武器
   (2)脳天保護
   (3)食物調理
   (4)打撃・摩擦・調理
  B呪術的・儀器的用具
   (1)埋葬時の儀式
   (2)性崇拝
  C実用的生活用具から呪術的・儀器的用具へと転化
   (1)処女性破瓜の道具から
   (2)打割・打撃する道具から
   (3)擦り石・敲き石から

分布状況から石冠は日本列島が東西から南北方向へと屈曲する地域より北側に限定して検出されている。分布の中心は中央山岳地方にあるが、最も濃密な分布を示す岐阜県よりも西側にはほとんど検出されていない点が留意される。反対に同所から700kmも離れた遠隔の東北地方には点在している。石冠・土冠を必要とした文化圏は落葉性広葉樹林地域の東日本で、稲作農耕の開始される直前の縄文時代晩期に盛行した用具である。西日本では同じ頃、石冠・土冠を必要としない文化圏が存在していたこととなり、両者が伊勢湾~北陸を結ぶライン上で対峙していた事実は興味深い。

                   縄文文化の研究 9 縄文人の精神文化 3 第二の道具 石冠・土冠 中島栄一