A happy birthday?
9月某日、ガーネットは切れる息を整えながら歩いていた。息が整うと、胸と気持ちだけが弾んで、いつの間にかまた走っていた。ガーネットの黒い髪が風になびいて、すれ違う人々は振り向いて唖然とする。綺麗、と感嘆の声とため息を洩らして。
もちろん、王女だってばれてしまわないように変装をしているつもりではいるのだが…。ルビィが仕立ててくれた町娘風の衣裳はガーネットの美しさまでは隠し切れなかったようだった。
走っていた足を少しづつ止めて、呼吸を整えようと俯いて胸に手をあてる。
どくん、どくん、どくん、どくん…
何度も、何度も激しく波打つ心音がゆっくり静かに波打つまで数分そのままの格好で。
顔を上げると、いつからいたのか…目の前にジタンがいた。
「きゃぁっ!」
ガーネットは驚いて声を上げると、ジタンもそれに驚いてしまったようで少しだけ苦笑いしていた。
「ダガー…?どうしたんだよ」
「え…あ、えーと…」
やっと心音が正常に戻ったと思ったのに、いつの間にか相手に聞こえるのはないか?と思うくらいまた激しくなる。
「…誕生日…でしょ?」
ジタンは、コクンと頷く。どうやらガーネットが言いたいことを悟ったのか、困ったような顔をして目線は泳がせて頬をかく。
「別にいいよ、オレら祝わないし」
「駄目なのっ」
ガーネットはエーコのように両手を腰において前を乗り出してそういう。私のときだけ祝ってもらうのっておかしいでしょ?だから…。そう付け足す。
「ほら、行こう?」
そっとジタンの手を握ると、彼を引きルビィの経営する小劇場に入っていった。どうやら、ジタンはブランクに小劇場まで呼び出されていて…。息を切らせていた私を見つけて、今に至ったらしい。
小劇場は今日だけお休みにしたらしい。タンタラスのメンバーとガーネットしかいなかった。最初はバツの悪そうな顔をしていたジタンも、周りの状況を楽しむように酒を煽るように飲み出した。
ジタンの誕生日を祝うのに、何故だかお祭り騒ぎになった小劇場。
バクーとジタンは元から酒が強くて談笑しながら周りを見ていた。でも、バクーの悪い癖か…元々アルコールの弱いブランクに酒を薦めだし。ルビィは笑い上戸のようで、気分の悪そうなブランクの背中を笑いながら叩いていた。シナは既に泥酔して、床の上で寝ているし、ゼネロ兄弟たちは一口飲んだだけでホロ酔いしていた。
ガーネットはそんなみんなを見ながら微笑して、ジュースを口に運んだ。
「ダガー、外…行かないか?」
ジタンにも少しだけ酒が回っているのか、頬は少し明らんでいる。
「うん、いいよ」
木製の机にまだジュースが残っているグラスを置いて、ジタンの手をとった。
やっと涼しくなった夜。つい先週までは寝苦しかったのに、いつの間にか秋に近付いていた。風が少し冷たい気がする…。小劇場から出てきて、風にあたりたかったのか…道の真中に立って空を仰ぐジタン。
「ね、大丈夫?」
そのまま伸びをする、ジタン。
「よっと…」
そして、後ろに飛び上がって宙で1回転。
「これくらい大丈夫さ〜♪」
酒を煽るように飲んでおきながら宙返りして、大丈夫なわけがないのだが…。案の定ジタンの足元はふらついていた。うーん、飲みすぎたかな…、ぼそっと呟いて金色の髪を軽く梳くようにかく。
小劇場へ続く階段の手摺に腰かけて、へへ〜、とガーネットを見て笑う。
「もう…いくらお酒が強くてもそんなに飲んだから頭痛いんじゃない…?」
「んじゃ、頭撫でて〜」
すたっと手摺から降りて、ガーネットの座っている長椅子の隣に腰掛ける。そしてにこにこしながらガーネットの顔に近付く。
「…しょうがないわね」
少しため息をつくと、ガーネットはジタンの頭を撫でる。ジタンの尻尾が面白いように動いて、猫のようにガーネットの膝に頭を置いて抱き付く。
「…んにゃぁ〜…ゴロゴロ…」
酔っているせいか、それとも意図的なのか、はたまた素でやってるのか…。そんなジタンをガーネットは少しだけ可愛い、と思ってしまう。甘えるジタンに微笑して、空を仰ぐ。
貴方に一番に会いに行きたい 貴方に一番に届けたい A happy birthday Your happy birthday 今日は貴方の年に一度の素晴らしい日 たくさんの 素晴らしい人々に囲まれて たくさんの素晴らしい出来事は まだまだこれから 貴方が生まれてくれたこの日に A happy birthday Your happy birthday A very special day 貴方を囲む全ての人たちも |
ゆっくりと、静かに確かに歌った。クスリ、とガーネットは微笑むと膝の上で寝こけているジタンの髪を優しく梳く。
「…でも、せっかくジタンの為に作ったのに…寝ちゃってるってひどい」
後ろに隠していた袋を手元において頬を膨らませる。笑みを浮かべて寝ているジタンの頬をむぎゅっ、とつねる。
「がぁーねっ…とぉ…へへ…」
一瞬身じろきをしたが、寝言を言ってまた深い眠りに落ちる。
「…はぁ…」
ガーネットはため息をついて起きそうもないジタンの頬をもう一度つねる。そして、ガーネットはバクーやブランクとルビィでまだ酔いの覚めない仲間を休ませる為、小劇場裏にある休憩室のベッドに寝かせた。もちろんジタンも。
ガーネットはバクーにお辞儀をして、家路に戻る。ベアトリクスと約束の12時までに城に帰らなくてはいけなかったから…。今日は走ってばっかり…、そう苦笑いしながら帰った。
ジタンが翌日、酷い頭痛に見舞われているとき、ジタンより数十倍も気分の悪そうなブランクが小さな袋を投げてよこした。
ジタンはブランクの言われるまま開けて見ると、小さなサファイアの宝石があしらわれているピアス。
「姫さんからだ。お前、ヘラヘラしながら姫さんの膝の上で寝てたぞ…さすがの俺もひいたぜ」
気分は悪そうでも、意地悪そうな笑みを浮かべてた。
「んー…あぁ?…そうか?」
「ああ、しっかり気持ち悪かったぜ」
「おい」
「スケベな顔ってああ言うこと言うのか…俺も気をつけないとな」
「待て、コラ」
ジタンとブランクは同時に言う。思わず笑ってしまった。そしてブランクは、んじゃ渡したからな、そう言って出て行こうとした。
「あ、そーだ」
ドアから顔だけ覗かせてジタンを呼ぶ。
「後で小劇場の掃除手伝え、だってよ。ルビィ、いつまでジタン寝とんのん!?とか言って怒ってたぜ」
クックックッ、と笑って手をヒラヒラと振って部屋から出ていった。
「……あー…」
二日酔いなのか微妙に痛む頭、着崩れた服に、まだ寝癖の残った髪、ガーネットからもらった誕生日プレゼント。ブランクがいなくなると妙に静かだった。
「…んー…」
動くのが少しダルいが、ルビィを更に怒らせてしまうのでのろのろと起き出す。ベッドの上にガーネットからもらったピアスを置いて井戸へ行く。
井戸水をくんで、それを頭にかける。これで少しは二日酔いが抜けるのだ。9月といってもまだまだ8月の陽気が残っているせいか水も冷たいとも思わなかった。むしろ涼しいくらいで丁度いい。眠気も覚めてしまった。
部屋から持ってきた布を頭からかぶって濡れた髪を拭く。そしてまた自分がさっきまで寝ていた部屋に戻り、ルビィがいつも使っている化粧台の鏡を覗き込む。いつもつけている緑色のピアスを外し、真新しいサファイアのピアスを、鼻歌を歌いながらつける。
上着を着て、髪を手で梳く。いつものように後ろで、少し長くなった髪を結んでまたルビィの化粧台にある鏡を覗き込む。
「へへ…」
ピアスを満面の笑みで見ながら、ジタンは陽気にルビィの元へ行く。この日、ジタンは誰になんと言われようが嬉しいそうに笑みを浮かべて一日を過ごしたとか…。
............FIN
あとがき
9月が誕生日な我等がヒーローなジタン君の誕生日!!(^-^)サファイアは9月の誕生石でございます。で…できれば、ガーネットがピアスを作った、と言う事に…しておいてください(汗)
あとガーネット…歌ってますね(←これもやっぱり歌ってるってことにしといてください:笑)もちろんオリジナルなので、詩もヘタレですが(激汗)英文(?)あってるかも不明(おい)
でもでも!とりあえず、ジタン君楽しそうなのでよし(何)