お姫様の合成クッキングは無事(?)終了した。
それを綺麗に、丁寧にラッピングして、愛しい恋人のもとへと向かう。頬を赤らめてうつむきながら歩く姿は、なんとも微笑ましく可愛らしいものだ。
ヴァレンタイン特有のどこか甘い雰囲気に酔いしれながら、劇場区のアジトの前まで彼女はたどり着いた。そして、一呼吸おいてから呼び鈴を鳴らす。扉を開けたのはもちろん彼だった。
「ガーネット、どうしたんだい?アレクサンドリアにいるはずなんじゃ…」
「…ッジタンに、渡したいものがあったの。だから…あの…」
「寒いから中に入りなよ。ほら、こんなに冷たい」
そう言ってお姫様の額に自分の額を重ねて、見つめある2人は素敵だった。そこまでは。
アジトに入るとすぐに、ガーネットはジタンに包みを渡した。真っ白な箱に青いリボンで飾り付けられている。ジタンは子供のような屈託のない笑顔で喜ぶと、急いで包みを紐解いた。でも、中からは彼の想像を絶するようなとんでもないものが現れた。
まず、ひどい悪臭。それは、なにか毒のような、鼻を刺す感じのひどい刺激臭だった。そして、見かけ。生クリームの間から、なぜか魚の顔や尾、目がのぞいている。しかも、どこかで見たことあるようなある虫の足がちらちらと…。それに、野菜や肉がケーキの間から逃げ出したがってるようにはみでていて、周りには花粉のような粉がかけてある。そして、真ん中に黄金のカエル(特大)がどしっと乗っていて、周りには彩りを考えてからカラフルなコンペイトウとか飴が飾られ、後方には見たことあるような牙が突き刺さっていた。
「あのね、上手く出来なかったけど、がんばったの」
これは下手や上手の次元じゃない、という視線をジタンが向けているのに気づかず彼女はしゃべり続ける。
「これでもの、朝早くから作ってジタンへの気持ちをたっぷり込めたの。…食べて…くれる?」
そう言って、弱弱しく微笑んだ姿はジタンといわず、他の人でも捕らえたであろう笑顔だった。瞳を潤ませて顔を伏せがちに、甘美な雰囲気を漂わせた囁きはジタンの心をわしづかみにした。その瞬間ジタンはノックアウトされた。
「もちろんだよ!ガーネットが頑張って、オレのために作ってくれたんだ。全部食べるに決まってるだろうっ」
日頃のナンパニストのおかげか、本領発揮で心にない言葉がすらすらと流れていった。
「本当、これ全部食べてくれるの?」
「あぁ、ぜんb…」
ジタンはこのとき自分がとんでもない地雷を踏んだことに気がついた。つい口走ってしまった食べるという言語。つまりは、もはや食べ物とは思えない得体の知れない物体を食べなければいけないということなのだ。
しかし、いまさら前言撤回するのはあまりにも無粋なことに思える。その言葉をきいてとても嬉しそうに笑う彼女を悲しませるわけにはいかない。
――何やってるんだ、オレ!愛しいガーネットがつくったケーキなんだ。見た目は関係な、こころなんだ!「男の価値は見かけじゃないんだ!ハートの熱さと夢の大きさで勝負だぜ!」ってビビに言ったのはオレだろう?そうなんだ、いくら見た目がグロテクスでもきっと味はいいはずだ。悪くても病院行きだけですむさ!……いや、下手したら死ぬかもしれない。このにおいは絶対怪しいからな…。でも、オレはガーネットの愛に生きるんだー!!!
心との葛藤をおえ、生命安全よりも彼女への愛を選びジタンはケーキをほおばった。
「あ、ジタンどうしたのっ!ねぇ」
どんな反応するのかしら、と少しどきどきしながら反応を見ていたのに、ジタンッたらいきなり倒れてしまったの。びっくりしたわ。どうしたのかしら?美味しくなかったのかな…。そのとき、扉がバンッと悲鳴をあげて、私思わず振り返ったわ。そこにはとんでもない人がいたの。
そこには例の露出狂としか思えない人物が立っていた。精一杯よく言って、個性あふれるメイクを顔にほどこし、淡く紫色に染められた月の光の銀色の髪をなびかせ、小ぶりの宝石やスパンコールやラメなどをふんだんに飾りつけグレードアップさせた独特の衣装に身を包んだ、ジタンの兄が立っていた。
「会いたかったよ、マイブラザーっ!」
まるで、オペラのように男性とは思えないほど声高らかにクジャは歌いあげた。そして、一目散にジタンに駆け寄り倒れている彼を起こした。
「君も会いたかったんだね、我が愛しき弟君よ。今日はヴァレンタインデー、僕の気持ちを受け取ってくれ!」
そういうと、どこから取り出したのかワイン色の包み紙をクジャはジタンに渡した。
「本当はこれから、ボクと君とのアドバンチュールな時間を過ごしたいけど、マイシスターにもチョコを渡さなければいけないんだよ。ブラザーガールとよろしくっ!」
ブラザーガールとはガーネットのことだろうか?
「おや…、これは美味しそうなケーキじゃないか。ひとつ頂くよ」
美味しそう、こういった時点でクジャのかんせいが問われるところだろう。
「トレビアーノっ!ブラザーガールは料理が上手だね〜。幸せものだね、我が弟!それじゃぁ」
一体、彼は何をしにきたのでしょうかね?
例によって、ジタンは病院行きとなりました。それでも、その間看病してもらえたのでそれはそれで良かったのではないでしょうか?お姫様はその後「普通の味覚」の料理について勉強しているようです。
NOVELS
もう、このEDはめちゃくちゃです。遊びました(苦笑
意味もなくクジャが出演したのは某友人の頼みにより。
誰もこのEDを見てないことを祈ります。
(2002.2.14 執筆)