お姫様の合成クッキングは無事(?)終了しました。
 それを綺麗に、丁寧にラッピングして、愛しい恋人のもとへと向かいます。頬を赤らめてうつむきながら歩く姿は、なんとも微笑ましく可愛らしいものでした。
 ヴァレンタイン特有のどこか甘い雰囲気に酔いしれながら、劇場区のアジトの前まで彼女はたどり着きました。そして、一呼吸おいてから呼び鈴を鳴らすと、扉が開きました。扉を開けたのはもちろん彼です。
「ガーネット、どうしたんだい?アレクサンドリアにいるはずなんじゃ…」
「…ッジタンに、渡したいものがあったの。だから…あの…」
「寒いから中に入りなよ。ほら、こんなに冷たい」
 そう言ってお姫様の額に自分の額を重ねて、見つめある2人は素敵でした。

 しかし、中に入ると一人余計としか言いようがない少女がソファーの上にちゃっかり座っていたのです。
「ひっさしぶりー、ダガー」
 そこにいたのはリンドブルム公女のエーコ姫でした。
「エーコ、どうしてここに?」
「えへへ、エーコねジタンに渡すものがあったから、ダガーの来るちょっと前に来てたんだよ!きっと、ダガーとおんなじ目的だと思うけどね」
 エーコはバックの中から紫色の包みを出すと、ジタンに差し出しました。
「ハッピーバレンタインッ!エーコのあつぅ〜い気持ちを受け取ってv」  エーコは周り中にハートをばらまくような笑顔で手渡します。
「エーコ、サンキュ」
 ジタンがピンク色のリボンをひっぱり、包みを開くとなかからとても凄いものがのぞきました。
 それは、一流のパティシエでも作るのが難しそうな細かな模様がクリームでつくられたケーキ。繊細かつ上品な模様は、まるで一流画家の絵画とも見間違えるほど精巧に作られています。
「すごいでしょう?エーコ、ものすご〜く頑張ったんだよ」
「ホントすごいよ!」
 それを見たガーネットは、すこし自信を失ってしまいました。だって、ジタンがすきそうなものを入れてみたけれど、見た目的にもエーコのほうがとても上手に見えたからでしょう。
「ダガーはどんなお菓子作ったの?」
 ガーネットは一瞬隠そうと思ったようですが、エーコの好奇心には勝てなかったようです。
「何これ!こんなの食べるとお腹壊すよっ」
 エーコが驚いたのも当然です。だって、現れたケーキからは魚の生臭いにおいがぷんぷんしてきて、クリームの間からのぞく鮮やかな赤色は生魚。ケーキの間からは、青魚の焼いたものとか、鋭い歯が見えてる魚の頭とか、どれだけお腹がすいていたとしても食べたいとは思えないケーキがのぞいていたのです。
 ガーネットはなんだかとても悲しく、恥ずかしく思えたので包みをぐしゃぐしゃと元に戻してアジトを飛び出ていってしまいました。

 そばのテーブルにケーキをほおりだし、お姫様は窓辺のテラスでぐすぐす泣きあかしていました。なんだか、みじめな気分です。慰めのようにあたたかく照らす銀の月の光に包み込まれながら膝をかかえていると、急に光がさえぎられました。くっきりと人の形に影を表しながら、猫のようなしっぽがゆらゆらと揺れ影になって映ります。
 ジタンが外側窓辺に腰掛けていました。
「じ…ジタ…ン」
 ガーネットは震える声でジタンの名を口にしました。
 ジタンは窓に手をかけて、部屋の中に入るとガーネットを抱きしめました。指先でガーネットの黒真珠から流れ落ちる真珠のような雫をぬぐうと、優しく微笑みました。
 それから、テーブルに向かうとあのケーキを口にしたのです。
「ジタン、お腹壊しちゃうよっ!ねぇ、やめたほうが」
 ガーネットがとめようとする中、ジタン君は全部食べてしまったのでした。
「美味しかったよ。ガーネットが心を込めて作ってくれたんだから、不味いわけないだろ?」
「っジタン…」
 ガーネットはまた泣き出してしまいました。でも、今度は悲しみではありません。

 月があたたかく、優しく、2人を照らしだしました。

NOVELS

あとがき

ちなみに、この原案は静最ちゃんです。Prankstarの管理者さん。
「ガーネットが不味い料理をつくって、エーコと比べられて、ジタンが夜やってきて食べる。」
たぶんその通りになったよね?
(2002.2.14 執筆)