「叶わないとしても貴方に恋焦がれています」
 満員となった会場の中で、彼の澄んだ声が響く。その迫真の演技に人々はひきこまれる。
 これは、バレンタインの劇のワンシーンであった。司祭は、兵士を結婚させたことによって投獄される。そして、ある看守の娘の目を、祈りで治すことに成功した。その娘に淡い恋心を抱く。処刑の前夜、娘はこっそりと司祭に会いに来たのだ。そこで、司祭は胸に秘めていた想いを明かすという感動的なシーンである。司祭はジタン、娘はルビィだ。
 司祭の告白に娘は頬を染めて、手で顔を覆い隠した。しかし、司祭は牢獄から手を伸ばし、彼女の白い手をとり口付けた。驚いた娘は、さっと手をひいてあとじさりしたが、お慕いしております、そう囁くと娘は立ち去っていった。
 ジタンとルビィの演技は本当に素敵なものだった。長年のコンビによって互いが知れているという感じだった。本当に素敵な演技なのに、…なんだか心がもやもやした感じだった。
 そう考えているうちに、劇は終わりに近づいていた。娘へ宛てた手紙を司祭が書き残し、処刑台へ向かうシーンで終わった。それが終わると、まるで逃げ出すように劇場からとびだした。なんだか、そこにいたくなかったから…。

 しばらく走ったあと誰かに肩をつかまれ、はっとしてガーネットは振り返った。
「何で行くんだよ」
「じ…ジタン、どうして?」
 ジタンは、さっきの舞台衣装のまま走ってきたようだ。
「見えてたよ、ガーネットが劇場にいたの。会いに行こうと思ってたに、走ってどこか行くんだから…。あ、アジトの中入るか?」
 さすがに、舞台衣装は周りの目を引く。まさか、アレクサンドリアの女王がこんなところにいるだなんて思いつかないだろうが、もしばれたら大変なこととなると考えたのだろう。とりあえず、アジトの中に入ることにした。
 あいかわらずごちゃごちゃと物が置かれている部屋に入ると、ジタンにすすめられ、そばに包みを置き近くのソファーに座り込んだ。
「で、どうして逃げるようにして出て行ったんだ?言わないとわからないぞ」
「なんだか、あそこにいたくなかったの…」
「どうして?」
「それは…」
 ジタンはずるい。そんなにしっかりした青い色の眼差しで見つめられて、隠し続けるなんてつけるはずがない。
「ジタンと…ルビィがすごく素敵で、分からないけどすごくもやもやしてきて…」
 そういうと、ジタンは笑いだした。そして、悪戯っ子のような瞳で見つめてくると、耳元で囁いてきた。
「やきもち?」
 なんだか、顔が赤くなっていくのが自分でも分かる、きっと耳まで真っ赤なのだろう。
「違うっ、そんなのじゃないわ!」
 また、ここから逃げ出したくなって立ち上がるが、あっという間に彼の腕の中にいた。そして、彼は手をとると甲に口付けた。ルビィのときよりも、かなり長く、深く口付けられた。
「貴方に恋焦がれています、大好きだよ。ルビィのは演技。これは俺のホントの気持ち」
 そう言って再び抱きしめられて、…頭のしんからくらくらしてくる感じだ。
「私も…大好き」
 一言一句区切るようにして気持ちを言葉にする。ジタンはさらに腕に力を加えたようだった。
「あのね、私ジタンにプレゼントつくってきたの。受け取ってほしい…」
 そう言って包みを渡す。ジタンは包みを開いてケーキを眺めた。果物やクリームが丁寧に飾り付けされ、ジタンとかかれているのを見ると、幼い子供のような邪気のない笑顔でありがとう、と微笑んだ。そして、そのまま視線が離せずにいて、少しずつ顔が近づいてくる。肩に添えられた手が恥ずかしくて、胸が早鐘を打って、もう何も考えられなくなって…。そっと瞳を閉じ、彼の吐息を間近に感じたときだった。
「疲れたわー」
 大きく扉が開かれ、タンタラスメンバーが現れた。劇も終わったので帰ってきたところなのだろう。それにしても、間が悪い。
 タンタラスたちは目の前の光景を唖然として見つめ、自分達がどれだけタイミング悪く入ってきたかをしった。ジタンは軽く聞こえない程度に舌打ちした。それで私は、もう隠れようにも隠れる場所もなく、ただただ顔を覆うことしか出来なかった。

 バレンタイン司祭の悲劇的な恋がもたらした、恋人達にとって甘い時間。
 2人にも進展があった一日でした。


End

NOVELS

あとがき

とりあえず、まともなEDの1つ。
この話し自体はバレンタインもの(普通の)を書こうと思ったときからあった筋です。
頑張って甘くしてみたのですがいかがでしたでしょうか?
かいていて恥ずかしかった…
(2002.2.14 執筆)